家でできる実験

身近な物を使って家でできる化学実験を紹介したり、化学の話をするブログです。

自由研究で十円玉を綺麗にする実験は違法!?

はじめに

 夏休みの自由研究では色々な実験が行われています。

その中で定番の一つに十円玉を洗剤や調味料で綺麗にする実験があります。

この実験は本当に身近にあるもので、しかも半日以内で結果を

出せるということもあり、多くの人が行っていると思います。

また、サイトやYoutubeで多くの人が、この実験を紹介しています。

しかし、多くの人がやっている自由研究ネタなのにも関わらず、

法律上アウト(犯罪)になる可能性があります。

 

 

何故、十円玉を綺麗にすることが犯罪になるのか?

 貨幣損傷等取締法という法律があります。

この法律の第1項に

「貨幣は、これを損傷し又は鋳つぶしてはならない。」とあります。

これは言い換えると

「貨幣を傷つけたり、高温にして溶かしてはダメ」ということになります。

この法律と十円玉が綺麗になる事がどのように関係してくるかについては

次の十円玉が綺麗になる原理を知っておく必要があります。

 

調味料や洗剤で十円玉が綺麗になる原理について 

 十円玉を綺麗にする実験の原理についてザックリと説明します。

十円玉は銅という金属(と少量のスズ、亜鉛という金属)を原料に作られています。

十円玉は使っていると表面に酸化銅などの錆で覆われてくるため

だんだん見た目が汚くなってきます。

汚くなった十円玉を調味料や一部の洗剤に浸すと、表面を覆っていた

錆だけが調味料や洗剤中の酸に溶けて取り除かれます。

その結果、錆びの内側にあった(錆びてない)部分が新しい表面になるため、

十円玉が綺麗になったように見えます(つまり綺麗になる理由は還元ではない)。

 ここで、錆びる前の十円玉の重さと、錆びた後に綺麗にした十円玉の重さを

比較してみると「錆びる前の十円玉>綺麗にした十円玉」になります。

これは、"元々は十円玉の一部"であった錆が取り除かれてしまったからです。

文章だけでは解りずらいと思うので、上記の内容を大げさに描いたのが

下の図1になります。

 

f:id:iedejikken:20201117113634j:plain

図1:一番左は錆びる前の十円玉、真ん中は錆びた十円玉(緑色の部分は錆を表す)、

一番右は綺麗にした(錆を取り除いた)十円玉を大げさに表したイラスト。

 

十円玉を綺麗にすることの問題点

 錆びた十円玉を綺麗にするということは元々十円玉の一部であった部分を

取り除いてしまうことになります。

そのため、貨幣を損傷していることに該当する恐れがあります。

(※十円玉が自然と錆びることは故意に損傷しているわけではないため問題は無い。

書くまでも無いが、わざと錆びさせることは損傷する事に該当する。)

また、錆びる前と比較して重量が減っているということは銅の量が

減っていることになるため、十円玉としての価値を下げていることになります。

 

 

綺麗な結晶の作り方(自由研究から、たぶん実験室レベルまで)

イントロ

 ミョウバンや塩などの結晶を作る人は自由研究の定番の一つだと思います。

本ブログでも色々な物質を作り、結晶として取り出す実験を幾つか紹介しています。

この記事では綺麗な結晶を作る幾つかの方法をご紹介します。

構成として前半は簡単な用語の解説、後半は結晶の作り方の説明を書いています。

結晶の作り方の一つについては実例を別の記事で紹介しています。

気になった場合はそちらも読んでみると良いと思います。

基本的に前半部分は何となく見ておいて、後半でわからなくなったら読み返す

程度で良いと思います。

 

iedejikken.hatenablog.com

 

綺麗な結晶について

 綺麗な結晶には以下の二つの意味があります。

①"見た目が"綺麗な結晶

②"純度が"綺麗な結晶

この記事では基本的に自由研究向けであるため①の綺麗な結晶を作る方法を

紹介しています。但し、後半で紹介する方法については研究室でも結晶を作る際に

用いられている基本的な方法(誰もが知っている手法ですが)であるため、

単結晶X線回折用の試料作りで悩んでいる人の役に立てれたら幸いです。

 

 

そもそも、結晶とは何か

 結晶とは物質を構成している原子、イオン、分子が規則正しく周期的に

並んでいる固体の事を言います。"ここで周期的に並んでいる固体"と書きましたが

世の中には原子などが不規則に並んでいる固体が存在しており、非晶質または

アモルファスと呼ばれています。

 

溶媒と溶質、溶液について

 何かしらの物質が溶けている液体の事を溶液と言います。

溶液において溶かしている液体の事を溶媒と言います。

そして、溶媒に溶けている物質の事を溶質と言います。

溶媒と溶質、溶液について具体例を挙げると塩を水に溶かしたものは溶液になります。

そして、水は塩を溶かしている液体になるため溶媒、塩は溶媒(水)に溶けている

物質なので溶質になります。

※溶質は必ずしも固体とは限りません。溶質が気体や液体の場合もあります。

また、液体同士を混ぜ合わせたもの(溶液)の場合、体積が多い方が溶媒になります。

 

溶液について

 溶液は使用している溶媒をわかるようにするために「溶媒の名称+溶液」と

呼ばれることが多くあります。溶媒が水の場合は水溶液と呼ばれます。

溶媒がエタノールならエタノール溶液と呼ばれます。

●●溶液という呼び方だけでは溶けている物質(溶質)が何か解りません。

溶質の情報を入れる場合は「溶質の名称+溶媒の名称+溶液」と呼びます。

例として塩化ナトリウム(食塩の主成分)を水に溶かしたものは

「塩化ナトリウム水溶液」よ呼ぶことになります。

 

溶解度と飽和溶液

 コップに入れた水に塩を入れていくとあるところで溶けきれなくなってしまいます。

このように溶媒には溶質を溶かせる限界の量があります。

ある溶媒に限界まで溶かせる溶質の量を溶解度と言います。

一般的に溶解度は溶媒100g当たりの量が記載されます。

そして、溶解度まで達している(これ以上溶質を溶かせない)溶液の事を

飽和溶液と言います。

 溶解度で注意するべきことは同じ溶質と溶媒の組み合わせでも温度が

異なれば溶解度も変わるという事です。

例として、スクロース(砂糖の主成分)は10℃の水100gに195g溶けますが、

40℃の水100gには235g溶けます。

(一般的に溶媒の温度が上がると溶解度が上がるものが多いが、

逆に溶媒の温度を上げると溶解度が下がる物質も存在する)

加えて、溶質が同じでも溶媒が異なれば溶解度も異なりますし、

溶媒が同じでも溶質が異なれば溶解度は異なります。

 

結晶ができるときについて

 溶液から結晶ができるという事は、その溶液は飽和溶液となっており、

溶けきれなくなった分が結晶になっていることになります。

そのため、結晶を作るということは何かしらの方法で溶液の溶解度を

下げてあげる必要があります。溶解度を下げる操作はゆっくりと

行うと大きくて綺麗な結晶ができやすくなります。

 

 

 結晶ができる際には何かしらの核となるものが必要であり、

核を中心に結晶は大きくなっていきます。

溶液中にホコリなどが混入や不純物の固体が残留していると、これらを核として

結晶が成長します。溶液中に不純物の固体が含まれているとそれらを核として

結晶が成長した結果、見た目は粉末状の細かい結晶が大量にできやすくなります。

そのため、綺麗な結晶を作る際には前もって溶液をろ過して不純物の固体をできるだけ

除去しておく必要があります(ろ過しなくても見た目が綺麗な結晶ができる場合も

あります)。

 

 

結晶の作り方

 ここから結晶の作り方について基本的な3つの方法(①~③)を紹介していきます。

 ⓪ろ過をする

 自由研究で結晶を作る際に地味に行われていませんが、結晶を作る前に

ろ過を行っておくと綺麗な結晶ができやすくなります。

①濃縮を使う方法

 結晶を作りたい物質の濃い溶液を置いておくと、溶媒が徐々に蒸発していきます。

やがて、溶けていた溶質が残っている溶媒に対する溶解度を超えるため、

超えた分が結晶として出てきます。

 

ポイント1:

ホコリやゴミの混入を防ぐためにティッシュやペーパータオルを被せること。

(ティッシュを使うと自身の細かい繊維が混入することがあります)

もしも、キムワイプやプロワイプがあればこちらを使用する。

(被せたものは風で飛ばないように輪ゴム等で固定する事)

 

ポイント2:

風通しの良い場所に置くとやや早く濃縮されるため結晶ができるまでの

時間を少しだけ短くできる。

実験室であればドラフトチャンバー無いに置いておくと結晶析出までの

時間をやや短くできる(試料が汚染される可能性があるため注意!)

 

ポイント3:

溶液の濃度が低いと飽和溶液になるまでに時間がかかるため、加熱して濃縮する事で

結晶が出てくるまでの時間を短くすることができます。

但し、加熱によって溶質が分解するなどの問題がある場合は行うことができません。

温度調節可能な実験用オーブンが使えるなら、低い温度で加熱してゆっくりと

濃縮するという方法もあります(定期的に見ないと乾固するので注意)。

また、ロータリーエバポレーターを使って濃縮するという手もあります。

 

②温度を変える方法

一般的に、温度が低くなるにつれて溶解度は小さくなります(例外あり)。

結晶を作りたい物質の溶液を冷却すると、溶けていた溶質が

その温度の溶解度を超えるため結晶として出てきます。

 

ポイント1:

冷却してもすぐに結晶が出てこないことがある。

場合によっては2~1週間後に出てくることもあります。

 

ポイント2:

複数の低い温度が用意できるなら試すこと。

但し、溶媒の凝固点(溶媒が水なら凍る温度)以下に原則しない。

実験室に複数のインキュベータや実験用の冷蔵庫があるなら、

溶液を複数に分けてそれぞれの温度(例、冷凍庫、5℃、10℃、15℃)で置いておく。

 

③他の溶媒を混ぜる方法

塩水にエタノールを加えていくと溶けていた塩が細かい結晶(見た目は粉末)として

出てきて沈みます。

エタノールは水に溶けることができますが、塩はエタノールに溶けません。

そのため、塩水にエタノールを加えていくとエタノールに塩が入っているような

状況になるため塩が溶けることができずに出てきます(本当は別の理由出てきます)。

塩水へ非常にゆっくりとエタノールを加えていくと、ある時点で溶解度を超えて

出てきた塩の小さい結晶を核として結晶が大きくなっていくため綺麗な結晶が

できやすくなります。

このように使用している溶媒とは別の溶媒を入れて溶解度を下げることで

結晶を作ることができます。

この際、溶解度を下げるために加えられる溶媒を貧溶媒と呼びます

(逆に溶質を溶かすのに使用している溶媒は良溶媒と呼びます)。

普通、結晶にしたい物質の溶液に貧溶媒を一気に入れると、見た目は粉末状の

細かい結晶が沢山できてしまいます。

貧溶媒を加えて大きな結晶を作るには貧溶媒がが少しずつゆっくりと

混ざるようにする必要があります。

大きな結晶を作るために貧溶媒を加える方法としては主に以下の2つがあります。

(1)貧溶媒を蒸気にして少しずつ結晶にしたい物質の溶液へ溶かしていく方法

(2)結晶にしたい物質の溶液の上に貧溶媒の層を作り(つまり2層になる)、

 放置して少しずつ貧溶媒を混ぜる方法。

 

(1)の方法(蒸気拡散法)について

 小さな容器に結晶にしたい物質の溶液(例えば塩水)を入れておきます。

一方で大きな容器に揮発しやすい貧溶媒(=結晶にしたい物質を溶かさない溶媒)

(例えばエタノール)を入れておきます。

貧溶媒を入れた大きな容器に結晶にしたい物質の溶液が入った小さな容器を

入れて密閉しておくと、大きい容器に入れておいた貧溶媒が少しずつ蒸発するため。

大きな容器内は貧溶媒の蒸気で充満した状態になります。

充満した貧溶媒は小さい容器内の溶液に少しずつ溶けていきます。

最終的に小さな容器内は大きな容器に入れておいた溶媒がある程度入った

状態になるため、溶媒に溶けていた物質の結晶として出てきます。

 このように密閉空間内でを貧溶媒を蒸発させて結晶を作る方法を

蒸気拡散法と言います。

蒸気拡散法での結晶の実例を知りたい場合は以下の記事を参考にしてください。

iedejikken.hatenablog.com

(2)の方法について

 容器に(濃い目の)結晶にしたい物質の溶液を入れて置き、ここへ静かに貧溶媒を

入れると(うまくいけば)溶液は2層になった状態になります。

この状態で放置しておくと2層は少しずつ混ざり合っていきます。

貧溶媒が混ざった結果溶解度が下がるので結晶が出てきます。

貧溶媒は必ずしも揮発しやすいとは限りらないため、揮発しにくい貧溶媒を

使う際にこの方法は使うことができます(揮発しやすい貧溶媒でも行えます)。

 

ポイント1:

結晶を作る際に、どの溶媒が結晶を作りたい物質を溶かせるか(=良溶媒になるか)、

溶かせないか(=貧溶媒として使えるのか)を知る必要があります。

 

ポイント2:

良溶媒と貧溶媒として使える溶媒が解ったら、結晶にしたい物質を良溶媒に溶かし、

どの貧溶媒との組み合わせで綺麗な結晶ができるのか確認を行います。

 

ポイント1&2について実験室でやる場合の参考例

Step1 沢山の5mlのバイアル瓶またはオートサンプラー用バイアル瓶を用意する。

Step2 結晶にしたい試料をスパチュラのスプーンの部分の1/4~1/3(多いかも)を

          Step1で用意したバイアル瓶に入れていく。(オートサンプラー用バイアル瓶の口    は狭くスパチュラじゃ入れることが不可のため1/4に切った薬包紙を使って入れる)

Step3 試料を入れたバイアル瓶1本に対して1種類の溶媒を1mlずつ入れていく。

     (マイクロピペッターを使えば楽に測って入れられます)

          どのくらい溶け残った場合も1/3ぐらい溶けたなど記録すると後で役に立ちます。

Step4 バイアルの蓋を閉めて軽く振り溶解するか確認する。

     溶解に時間がかかる物質もあるため、最低でも1日静置して確認する。

   光や室温で分解する物質もあるため静置する場所は考えておくこと。

   押し込むタイプの蓋のサンプル瓶だと揮発性の溶媒を中に入れた際に

   蒸発した溶媒の圧で蓋が飛ぶ可能性があるため使用は避けた方が良いです。

Step5 どの溶媒に試料が溶解するのか、溶解しないのかを記録する

Step6 試料を溶解できる溶媒と溶解できない溶媒が混ざるのかどうかを調べる。

     実際に確かめなくてもネットで調べると汎用溶媒については表として

     出てくるので参考にすると時間と試薬が無駄にならずに済みます。

   ※表にはジエチルエーテルとDMF(N,N-ジメチルホルムアミド)が混ざると

    書いてあるものもあるが実際にはエーテルが少ししか溶けない。

Step7 Step6から混ざる組み合わせを探す。組み合わせの中で試料を溶解しない溶媒が

   揮発しやすい(=沸点が低い)ものであるなら、その組み合わせで蒸気拡散法を

           行える。試料を溶解しない溶媒の沸点が高い場合、(2)の方法で結晶を

   作成してみる。

Step8 結晶を作成する際には1つの溶媒の組み合わせ行う場合、試料の溶液を

   三つに分けて蒸気拡散法を行う事。

   結晶作成は条件が同じでもうまくできるとは限らないため、試料の溶液を

   分割せずに行うと一つの条件本当にうまくいくのか解らなくなる。

 

Step9 (2)の方法で結晶を作成する場合、試料の溶液を入れた容器の上から

   貧溶媒を入れて2層にするのが難しい人がいるかもしれない。

   その場合は、ギリギリまで試料を入れた小さいサンプル管を

   大きい容器に入れ。サンプル管の口よりも少し上になるまで

   貧溶媒を大きい溶液に加えて放置することで難易度は低下する。

 

Step10 基本的であり非常に重要な事であるが、結晶にしたい試料の溶液は

    前もってろ過を行っておく事。

   不純物の粒子や埃などが混入するとそれを核にして結晶が成長するため

   粉末状の結晶しか生じない場合がある。

   結晶作成する際に使用する溶液の量は少ないため、紙のろ紙を使った

   ろ過を行うよりもシリンジに取り付けるタイプのフィルターを使う方が

   お勧めです。このフィルターは紙のろ紙よりも孔径が小さいので

           より多くの固体を除去できます。

 

文字数が多いので一応ここまでにしておきます。

この記事では一般の人向けをメインに結晶を作りの知識にあたる事を書きました。

多分、(実験室でやる)結晶を作るやり方について別の記事で書いた方が

良いと感じたのでやる気と時間があったら書いてみようかなと思います。

 

 

更新履歴(試験導入)

2021/1/23 不足していた本文の追加と修正

2021/1/17 不足していた本文の追加と修正

2021/1/15 更新履歴と参照記事へのリンク及び、本文修正

2020/11/24 記事投稿

 

2日間で青い結晶(酢酸銅)を作る 解説編

イントロ

 実験編では身の回りの物を使って青い結晶(酢酸銅)の作り方を紹介しました。

解説編では実験の原理、具体的には何が起こったのかについて説明していきます。

短時間で書き上げた記事となるので実験編も含めて記事のクオリティに関しては

恐らく今まで書いた記事に劣っていると思います。

そのため、近いうちに原理について追加したり細かい点を修正したする予定です。

 

 

一日目(午前)では何が起きているのか? (一日目(午前)の操作①~⑩)

 このブログで紹介している「調味料や洗剤で汚い十円玉は還元できない?」を

閲覧した方であれば気が付いたかもしれませんが一日目(午前)では水酸化銅(Ⅱ)を

作る操作を行っているます。水酸化銅(Ⅱ)を作る方法は幾つかありますが、

この実験では電気分解を利用しています。

 電気分解は電気を流す液体に電源に繋げた二つの電極(金属や炭素のような電気を

流すもの)を入れて化学反応を起こす事を言います。

今回の実験において、電気を流す液体は食塩水、電極は銅(銅線)になります。

 電気分解で電源の+極に繋げた電極では電子を失う反応が起こります。

一方、電源の-極に繋げた電極では電子を受け取る反応が起こります。

電極に銅を使って食塩水を電気分解すると+極に繋げた銅線では、

銅が電子を失って銅(Ⅱ)イオンが生じる反応が起こります。

Cu→Cu²⁺ + 2e⁻ (銅→銅(Ⅱ)イオン + 電子)

一方、-極に繋げた銅線では水が電子を受け取って水素と水酸化物イオンに分解する

反応が起こります(そのため、-極に繋げた銅線では食塩水中に気泡が生じている)。

H₂O + 2e⁻→H₂ + 2OH⁻ (水 + 電子→水素 + 水酸化物イオン)

これらの反応によって、食塩水中にはCu²⁺(銅(Ⅱ)イオン)とOH⁻(水酸化物イオン)が

供給されることになります。

Cu²⁺はOH⁻と出会うと水に溶けにくいCu(OH)₂(水酸化銅(Ⅱ))という物質を生じます。

Cu²⁺ + 2OH⁻→Cu(OH)₂ (銅(Ⅱ)イオン + 水酸化物イオン→水酸化銅(Ⅱ))

この物質は水色をしているため、一日目(午前)の操作⑩の後に

ガラス容器の底面を見てみると茶色の物に混じって水色の沈殿が見られます。

 

茶色い物の正体は何なのか?

 茶色い物の正体は銅の粉や銅の小さな塊です。今回の実験で+極に繋いだ

銅線では銅から銅(Ⅱ)イオンが食塩水中に供給される反応が起きています。

これは銅線が少しずつ溶けて行っている=腐食されていることと同じです。

その結果、銅線の表面は部分的にボロボロになって剥がれ落ちることで

銅の粉や銅の小さなか塊ができます。

また、電気分解を続けていると陰極では水から水素と水酸化物イオン

生じる反応だけでなく銅(Ⅱ)イオンから金属の銅が生じる反応が起こります。

Cu²⁺ + 2e⁻→Cu

この反応によって-極に繋いだ銅線の表面に銅が付着することになります。

この付着した銅は部分的に取れやすくなっており、一部は銅線を外れて

銅の小さな塊となってしまいます。

 

一日目(午後)では何を行ったのか? (一日目(午後)の操作①~⑥)

 一日目の(午前)で作った水酸化銅(Ⅱ)は食塩水の中に沈んだ状態になっています。

今回の実験で必要なのは水酸化銅(Ⅱ)であるため、食塩は要らない物質になります。

加えて、青い結晶を作る段階で食塩が残っていると青い結晶に混じって食塩の結晶が

紛れてしまう可能性があります。食塩の結晶が混じってしまうのを防ぐために

一日目(午後)の操作①~⑥では食塩を取り除く操作を行っています。

酸化銅(Ⅱ)は水に全く溶けない物質ですが、食塩は水によく溶ける物質です。

そのため、食塩水の上澄み液を捨てた後、水を加えて上澄み液を捨てる操作を

繰り返すことで食塩の大部分を取り除く事ができます。

 

お酢の除草剤を加えると何が起こるのか?(一日目(午後)の操作⑦~⑩)

 先に結論から書くと今回結晶として作りたい物質である酢酸銅(Ⅱ)ができます。

お酢の除草剤にはお酢の主成分である酢酸(化学式:CH₃COOH)が含まれています。

酸化銅(Ⅱ)に酢酸を加えると酢酸銅(Ⅱ)(化学式:(CH₃COO)₂Cu)という水溶性の

物質が生じます。

2CH₃COOH + Cu(OH)₂→(CH₃COO)₂Cu + 2H₂O (酢酸 + 水酸化銅(Ⅱ)→酢酸銅(Ⅱ) + 水)

 お酢の除草剤を加えると、茶色の物が減っていることに気が付くと思います。

茶色の物は銅の粉と小さな塊から成りますが、食塩を取り除く操作で水酸化銅(Ⅱ)と

混じった状態になっています(一日目(午後)の操作①~⑥)。

茶色の物の中の水酸化銅(Ⅱ)は(お酢の除草剤中の)酢酸に反応して無くなるため、

結果として茶色の物の量は減ることになります。

 

何故、青い結晶ができるのか?

 密閉容器に酢酸銅(Ⅱ)が溶けた水を入れた容器とアセトンを一緒にしておきます。

すると、アセトンは揮発しやすいため密閉容器内に気化したアセトンが充満して

いきます。また、アセトンは水によく溶ける物質であるため気化したアセトンが

少しずつ酢酸銅(Ⅱ)が溶けた水に溶け込んでいきます。

その結果、酢酸銅(Ⅱ)を溶かしていたものが水では無く水とアセトンの混ざった

液体になります。酢酸銅(Ⅱ)はアセトンに溶けることはできますが、水と比べると

溶かせる量は少ないです。そして溶け込んだアセトンの量があるところを超えると

酢酸銅(Ⅱ)は溶けきれなくなって固体(結晶)として出てきます。

アセトンが溶けるにしたがって溶けきれなくなって固体として酢酸銅(Ⅱ)は

出てくるので時間が経つにつれて酢酸銅(Ⅱ)の結晶の量が増えたり、

結晶のサイズが大きくなったりします。

 今回のように結晶にしたい物質が溶けた液体(今回は水)とその液体に混ざることが

できる揮発性の高い液体を一緒に密閉して結晶を作る方法を蒸気拡散法といいます。

分子の形や並び方を知る方法として結晶にX線を当てて、得られたデータを処理する

方法があります(単結晶X線構造解析)。この方法を行うには塩粒よりも少し小さい

宝石のように綺麗な結晶が必要です。

しかし、作った物質の綺麗な結晶を作ろうとしても粉のような細かい結晶や

表面にデコボコだったりヒビのあるような結晶しかできないこともあります。

そのため、綺麗な結晶ができない場合、蒸気拡散法で使う液体の組み合わせを

変えたり等、色々な方法を試すことがあります(ちなみに著者も苦労した一人です)。

2日間で青い結晶(酢酸銅)を作る 実験方法編

イントロ 

 短い時間で行える自由研究を求める人が多いような気がするため、

身近な物を使って2日間で綺麗な青色の結晶を作る実験をご紹介します。

また、今年の夏休みは新型コロナウイルスによる影響で例年と比較して短く、

自由研究が無い学校もあったりします。

例年の比べて短い夏休みの中、自由研究やる人の役に立てれば幸いです。

 このページでは実験の方法について書いていきます。実験の解説については

解説編で書いていきます。

 

 

必要なもの

アセトン&除光液を除けば家に在ったり、100円ショップで購入できるものです。

・銅製の針金

・9V電池

・塩

・水道水

・プラスチック製の使い捨てスプーン

・100mlの液体を入れられるガラス製の容器(ジャムの瓶など)

・200ml以上入るガラス製の容器(ジャムやインスタントコーヒーの空き瓶)

・小さいガラス製の容器(図1の左の瓶)

・小さいガラス製の容器が入る大きめのガラス製容器(図1の右の瓶)

お酢の除草剤

・スポイト(100円ショップの習字コーナーにあります)

・アセトン(ドラッグストアやホームセンター)orアセトン入りの除光液

・ガラスor金属製の計量カップまたは金属製の計量スプーン

・ラップ

・輪ゴム

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図1 左:小さいガラス製容器(50ml)、

右:小さいガラス製容器が入る大きめのガラス製容器(200ml)

※プライバシーの関係上、加工した画像を使用しています。

 

実験方法・やり方

これから扱うものは基本的に金属を錆びさせる性質があるものなので

必要なもので上げたものを除いて金属製の物に触れないようにしてください。

1日目(午前)

①銅製の針金をペンや鉛筆に巻き付けて、図2のように長さ5cmぐらいのバネを作る。

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図2 銅製の針金で作ったバネ

 

② バネが付いた銅線をバネから20 cmぐらいのところで切る。

③ ①と②で作ったものをもう一つ作る(バネのついた針金が2本できる)。

④ 100ml程の水が入るガラス製容器にバネ状の大部分が付かるぐらいまで水を入れる。

⑤ ②に食塩二つまみを入れて溶かす。

⑥ 二本あるバネ付いた針金のうち、1本の針金部分を9V電池のー極に

  巻き付けて取り付ける。

⑦ 二本あるバネ付いた針金のうち、もう1本の針金部分を9V電池の+極に

  巻き付けて取り付け、セロハンテープで取り付ける。

⑧ バネの付いた針金のバネの部分を⑤の食塩水に入れる。

※二つのバネが触れ合わないようにする。場合によってはセロハンテープで固定する。

⑨ 2時間半待つ。

⑩食塩水からバネの部分をゆっくりと引き上げる。

 

1日目(午後)

① 200ml以上入るガラス製の容器を用意する。

② 1日目(午前)の⑩のガラス容器をゆっくりと傾けて、茶色の物が流れ出ない

  範囲で上澄み液を200ml以上入るガラス製の容器へ流しいれる。

・Point プラスチック製のスプーンを伝わらせると垂れずに入れられます。

③ 茶色の物が入っているガラス容器に水道水50mlを入れる。

④ 茶色の物が沈むまで10~15分待つ。

⑤ 上澄み液を200ml以上入るガラス製の容器へ流しいれる。

⑥ ③~⑤を後、2回行う(一番最後の上澄み液はできる限り取り除く)。

⑦ 茶色の物に5mlのお酢の除草剤を少しずつ加える。

     お酢の除草剤を加えたものには金属を腐食する作用があるので注意

⑧ 溢さないようにゆっくりと混ぜ合わせる。

⑨ 茶色の粉が沈むまで10~15分待つ。

⑩ スポイトを使って水色の上澄み液を小さいガラス製の容器に移し入れる。

⑪ 小さいガラス製の容器が入る大きめのガラス製容器を用意する

⑫ ⑪で用意した容器に20~30mlのアセトンを入れておく。

※アセトンはプラスチックなどを溶かすので金属orガラス製のもので

 測り入れてください。

⑬ ⑩で上澄み液を入れた小さいガラス製の容器を⑫の容器に静かに入れる。

⑭ 大きい方のガラス容器にラップを被せて輪ゴムで止める。

 

2日目

① 水色の液体の中に塩粒、場合よっては大きい青色の結晶が有ることを確認する。

    うまくいっていれば画像のように結晶ができます。

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※もしも、結晶を集めたい場合は二つの点に注意して以下の方法で行う。

   注意1:青色の液体は一部を除いて金属を腐食する性質があるため、

                金属製の物に触れないようにする。

   注意2:結晶は長い間空気中にさらされると崩れる可能性があるため、

        液体から出して密閉容器に入れるまでの時間は短くする。

② 別のガラス製容器に上澄み液を流しいれる。

③ 直ぐに結晶の表面についた液体をキッチンタオル等で拭きとる。

④ 密閉できるしっかりとガラス製の容器に入れて密閉する。

    ※②で回収した上澄み液を置いておくと青茶色い結晶ができます。

 

解説編に続く

【番外編】 硫酸ネオジムアンモニウムの合成について

 「身近な物で色が変わる結晶を作る」というタイトルで硫酸ネオジムアンモニウム

合成する方法と一般人向けの解説を紹介しました。

この記事では「身近な物で色が変わる結晶を作る」に関して補足情報や

問題点、著者の考察について書いていきます。

前編と後編は化学をしていない人でも解るように書きましたが、

この記事では高校化学+α(大学化学の初歩レベル)の内容を学んでいる人向けに

書かして頂きます。ただし、著者がポンコツなので知性や学を感じ無い内容に

なっていると思うのでそこはご承知おきください。

 

 

得られた結晶の組成について

 この実験において最も重要な事なのにも関わらず、最終的に得られた結晶の組成は

不明です。しかし、得られた結晶のIRスペクトル測定は行っており、

Na₂SO₄無水物及び(NH₄)₂SO₄のIRスペクトルから考慮して結晶中にはNH₄⁺とSO₄²⁻が

含まれていることを確認しました(Figure 1)。

 

 

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Figure 1. The IR spectrum of sodium sulfate(black) & ammmonium sulfate(red),

neodymium ammonium sulfate n-hydrate(blue). The Ir spectrum were mesured by KBr pellet.

 また、得られた結晶は太陽光でピンク色、(種類にもよるが)室内灯で黄緑色に

変化するためネオジム磁石からNd³⁺を取り出せている事になります。

これらの事を考慮すると得られた結晶はほぼ硫酸ネオジムと硫酸アンモニウム

複塩であるといえます。

 

得られた結晶の組成を知るためにはどうすればよいのか

 硫酸ネオジムアンモニウムの水和物は(組成が単純なこともあり)結晶データベースに登録されている物質です。そのため、シミュレーションパターンや格子定数と得られた結晶のXRD測定結果を比較すればすぐに同定することができます。

その他に元素分析を行う方法もありますがどちらにせよ、外部の研究機関で

分析をして頂く必要があり、測定に料金(特に元素分析の料金は高い)がかかることや

手続きが面倒なこともあって何もできていないのが現状です。

 もしも、個人で組成を特定するなら古典的な重量分析を行う方法が挙げられます。

硫酸ネオジムアンモニウムを構成するイオン及び結晶水は下記の方法で

定量することになります。

Nd³⁺:水酸化物沈殿を経て酸化物の重量から定量orシュウ酸塩にして定量

NH₄⁺:結晶の重量からNd³⁺とSO₄²⁻、結晶水の重量を引く

SO₄²⁻:CaSO₄として回収し、その重量から

結晶水:加熱による重量損失から(温度に注意しないと分解によってNH₃が

生成してその分の重量が減ってしまう)

 ネオジム磁石にはNdと同じくランタノイドであるDyが含まれています。

ランタノイドは基本的に化学的性質が似ているので得られた結晶中にはDy³⁺が

含まれていると考えられます。

けれども、ランタノイドの硫酸塩の溶解度はLaからEuにかけて減少傾向にあるものの、

それ以降は原子番号が増加するにしたがって溶解度が増加する傾向があります。

(この傾向を利用することで複数のランタノイドが混ざった溶液から原子番号

小さいランタノイド(軽希土)と原子番号の大きいランタノイド(重希土)を大まかに

分離することができる)。

つまり、(得られた物はNH₄⁺複塩ではあるものの)硫酸Ndと硫酸Dyの溶解度を

比較すると硫酸ジスプロシウムの方が大きいことになります。

そのため、得られた結晶中にDy³⁺は含まれているものの、重量分析では問題無い

量であると考えられます。

「方法を書くなら実行しろ」という意見が出ると思いますが、純度の良い沈殿材の

準備など問題点があるため残念ながら何も手を付けてはいません。 

 

結晶にヒビが入る現象

 この実験において、得られた結晶にはヒビのようなものが入っています。

溶液から取り出して乾燥させた結晶が風解によってヒビが入ることはあります。

しかし、この実験で析出した結晶は溶液中にある時点でヒビが入っています。

析出したばかりの小さな結晶ではヒビが見られないようですが、

結晶が成長するとヒビが見えてくることから、以下の二つが原因ではないかと

考えています。但し、二つの説は根拠となるようなものは何もないため

あくまでも著者の想像になります。

【①多結晶】

析出した結晶は一つのように見えるが、実は複数の結晶でそれぞれが

成長するためにヒビが入ってしまう。

 

【②多形or擬多形への変化】

析出した結晶は準安定状態であり、徐々により安定な多形や擬多形に

変化するためヒビが入ってしまう。

 

ネオジム磁石には樹脂?の被膜が施されている

 ネオジム磁石は防錆などを兼ねてニッケルの被膜(メッキ)が施されています。

この実験において、溶解スピードの差などからニッケルの被膜は溶け残ります。

溶け残ったニッケルをニッケル塩の原料に使えないかと思い、取って置いた

ニッケルの被膜を塩酸を含むトイレ用洗剤に沈めたところ、短時間で溶解しました。

しかし、その溶液は澄んだなく海苔の味噌汁ような黒いヒラヒラとしたものが

沢山ありました。

 普通なら、ろ過で黒いヒラヒラを取り除けばよいのですが元々の溶液の量が少なく、

損失や後の濃縮をする必要があるため、一般的なろ過を行うことはできませんでした。

こういう場合、(著者なら)遠心分離やシリンジフィルターを行うのですが、

前者は所有して無く、後者は所有しているものの少し高価でケチってしまい

使いませんでした。

 この黒いヒラヒラ何のかは不明ですが恐らく防錆のための樹脂のような

ものではないかと考えられます。

念のため、強力な磁石で吸い寄せられるか試したところ吸い寄せられませんでした。

また、トイレ用洗剤を含んでいる状態ですがジクロロメタンを加えて

軽く振り混ぜたりもしましたが黒いヒラヒラは溶解しませんでした。

 そもそも、Niはメッキとして使われているためNd磁石1個当たりから

得られるNiの量は非常に少なく、利用するメリットは小さい。

 

結晶が茶色い

 紹介した方法で得られた結晶と、回収した結晶を2~3回再結晶して得られた結晶を

比較すると前者の方がごく僅かに黄~茶色がかって見えます。

析出した結晶を回収する際に、結晶表面を濯いで洗浄をしていますが、

それだけでは落としきれなかったり、結晶内部に取り込まれている可能性が

考えられます。

当初、これはDy³⁺を含むためだと考えていました(硫酸Dy8水和物が黄色のため)。

けれども、「得られた結晶の組成を知るためにはどうすればよいのか」で

書いたように結晶中に含まれているDy³⁺は少ないこと、Nd磁石中の

Dyは約5%であることを考慮すると、Dy³⁺が原因である可能性は低いことになります。

 

【番外編】 ライターの石からレアアース硫酸塩を合成する

 「ライターの石からレアアースを分離する」というタイトルで

硫酸ランタンアンモニウムと硫酸セリウム(Ⅲ)アンモニウムを合成する方法と

一般人向けの解説を紹介しました。

この記事では「ライターの石からレアアースを分離する」に関して著者の不明点や

紹介できなかった補足、個人的な考察を書いていきます。

加えて、今まで書いてきたのはなるべく化学をやっていない人でも

解るように書いてきましたが、この記事では大学の化学の初歩的な内容を

学んでいる人向けに書かせてもらいます。

ただ、著者がポンコツなので知性や学を感じ無い内容になるのはご承知おきください。

 

沈殿が溶解して四角い結晶が成長する現象について

 発火石から希土類硫酸塩を作る際、まれに沈殿を静置しておくと

沈殿は溶解して結晶が析出してくることがあります(図1)。

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図1 沈殿から結晶の析出

この現象が起こる条件と原因については現在のところ解明には至ってません。

ただ、下記の条件のヒントとなるような事が解っています。

・冬や初春に行うと稀に確認できるが、それ以外の季節では確認されてない。

   (気温の高い季節に確認されてないだけで、起こる可能性も否定できない)

・上記の条件に加えて発火石を溶かした液をろ過する際に、ろ液を入れる

ビーカーにあらかじめ(NH₄)₂SO₄を入れておくと稀に起こる。

(綺麗な沈殿を作るという点では上記の方法は不適当ではある)

 これらの条件のヒントから、①沈殿の熟成、②多形or擬多形への変化が

原因ではないかと考えています。 以下、それぞれの仮説について書いていきます。

 

【①沈殿の熟成】

 沈殿の熟成において、多数の小さな沈殿粒子(結晶)が溶解すると同時に、

別の沈殿粒子が成長していくという現象は、(NH₄)₂SO₄を加えて生じた沈殿が

母液中で四角い結晶になるという現象と類似しています。

また、多くの塩や水酸化物は温度が上がると溶解度が上がるため沈殿の熟成を

行う際には加熱を行いますが、希土類の硫酸塩は温度が上がると溶解度が

下がるため、温度が低い状態の方が沈殿の熟成は進みやすくなる可能性があります。

加えて、沈殿から四角い結晶ができる現象は液温が低くなる気温が低い

時期にしか確認されていません。

 

【②多形or擬多形への変化】

 そもそも(NH₄)₂SO₄を加えて生じた沈殿とその後に析出した四角い結晶が

同じ結晶なのか、異なる物質なのかですら解ってはいない。

私は、(NH₄)₂SO₄を加えて生じた沈殿とその後に析出した四角い結晶が

多形または擬多形の関係にあるのではないかと考えている。

生じた沈殿の一部と、沈殿の残りから析出した結晶のPXRD測定を行えば

同じ結晶か違う結晶なのか知ることができる。

また、希土類硫酸塩やそのアンモニウム複塩のような単純な化合物であれば

(既に構造解析も行われているはずなので)恐らく結晶データベースに

載っているため、シミュレーションパターンとの比較で物質の同定も行える。

ただし、機器測定は外部の研究機関に測定してもらう必要があり、

その測定も当然有料である。また、測定を行うには手続きが必要であるが、

面倒そうなので中々一歩が踏み出せないのが現状である。

 

得られた固体の組成について

 この実験では最も重要な事である最終的に得られた固体(粉末、結晶)の

組成が何なのかですら解ってはいない。

XRDによって得られた物質を同定を行うことができるが、先ほど書いた理由で

行えたはいない。

ただし、得られた固体はアンモニウム複塩である可能性は非常に高いと考えている。

その理由として私が以前紹介した硫酸ネオジムアンモニウムの合成の実験がある。

この実験では、今回の実験と同様に希土類(Nd³⁺)を沈殿させるために(NH₄)₂SO₄を

用いている。そして最終的に得られた結晶のIRスペクトルの測定を行っており、

N-Hに由来するピークが確認されているためアンモニウム複塩であるということが

解っている。

 信頼性が低くなるが、古典的な重量分析であれば固体の組成を家で決定することが

可能である。ただし、得られた固体にはLa³⁺とCe³⁺が混ざっているためそれぞれを

定量する分、手数が増えてしまう。

また、得られた固体中の希土類はLaとCeが大部分を占めるが、他の軽希土類も

少量含まれているため、その分の重量が測定結果に影響してくる可能性が考えられる。

もし、家で重量分析を行う場合は、下記の方法で各イオンを定量することになる。

水(結晶水):加熱前の固体重量から加熱後の重量の差分から

Ce³⁺:CeO₂として回収し、その重量から(酸化剤を探す必要がある)

La³⁺:固体中の希土類を(水)酸化物として定量後、Ce³⁺との差分から

SO₄²⁻:CaSO₄として回収し、その重量から

NH₄⁺:固体の重量から結晶水、Ce³⁺、La³⁺、SO₄²⁻を引いた差分から

組成を決定するために重量分析を行うとなると、そこそこの量の

試料としての固体と純度が良い沈殿剤が必要となる。

そういったものの準備と測定に費やす時間を考えると労力やコスト、

時間がかかるため結局のところ何も行えてないのが現状である。

 

再結晶によって2種類の結晶が確認される

 実験を最後まで(粉末の再結晶まで)行うとダイヤ型の四角い結晶に混じって

少量の柱状の結晶が確認されることがある。

XRD測定で同定すればすぐに解決する事であるが上記の2種類の結晶の違いは

何なのか解ってない。考えられる可能性として①多形or擬多形、

②金属イオンとNH₄⁺の比が異なる複塩、③硫酸アンモニウムがある。

 

【①多形or擬多形】

溶けている物質は1種類なのにそこから析出する結晶は多形or擬多形の関係にある

2種類の結晶である場合がある(結晶によって機能性の有無がある場合、析出条件は

重要です)。もし、四角い結晶と柱状結晶が多形や擬多形の関係であるのなら

析出量の少ない柱状結晶のみを再結晶して見てどちらの結晶が析出するか

確認する必要がある。

 

【②金属イオンとNH₄⁺の比が異なる複塩】

硫酸セリウムアンモニウムについては不明ではあるが硫酸ランタンアンモニウムにはLa³⁺:NH₄⁺の比が1:1、1:3、1:5、1:6、2:5の複数が知られているため

組成比が異なる複塩が析出した可能性がある。

 

【③硫酸アンモニウム

析出した柱状の結晶は硫酸アンモニウムの結晶と類似している。

そのため、不純物というよりは再結晶時に複塩にならなかった

硫酸アンモニウムが結晶として析出した可能性がある。

これに関してはその結晶のみを回収してから水に溶解後、アンモニア水や

Na₂CO₃水溶液といった塩基の水溶液を加えて水酸化物や塩基性炭酸塩の

沈殿有無を確認すれば希土類の複塩かどうかを判別することができる。

 

ライターの石からレアアースを分離する 後編(Syntheses Lhanthanum & Cerium Ammonium Sulfate at home Part 2 of 2)

 前編ではライターの発火石(火打ち石、フリント)からレアアース

分離する方法を紹介しました。

後編では実験の原理について解説していきます。

前編の冒頭に書きましたが、この実験の基本的なところはネオジム磁石から

硫酸ネオジムアンモニウムを作る実験を参考にしてます。

 

iedejikken.hatenablog.com

 

何故、発火石の表面を削るのか? (操作①)

 発火石は、鉄とレアアースに分類される複数の金属(主にセリウムとランタン)、

マグネシウムからできています。

発火石に使われている金属というのはライターの着火に使われるように、

火花が出やすい=(酸素と)反応しやすい金属が使用されています。

そのため、発火石をそのまま置いておくと、少しずつ錆びてしまうので、

これを防ぐために発火石の表面には塗装がされています。

 発火石の塗装には小さな隙間があるため、塗装を削らなくても

トイレ用洗剤に溶けることができます。

しかし、小さな隙間だけではトイレ用洗剤と触れる面積が小さいため、

溶けるまでにかかる時間が少し長くなってしまいます。

また、反応で生じたガス(水素)が塗装内の空洞に溜まると、

トイレ用洗剤に浮かんでしまい、発火石が溶けたかどうかの判断が

解りずらくなってしまいます。

そのため、発火石の塗装を2か所削るのは、トイレ用洗剤に触れる面積を

増やすのと同時に、生じたガスが溜まって浮くのを防ぐためです。

削る理由が上記の理由になりますが、率直なことを書いてしまうと、

発火石の表面を削らなくても一応、実験はうまくいきます。

 

発火石にトイレ用洗剤を加えると何が起きているのか? (操作④~⑦)

 今回、使用したトイレ用洗剤には塩酸が含まれています。

発火石で使用している金属は反応性が高いため、これらの金属は

塩酸と反応すると水素を発生しながら水溶性の物質(FeCl₂やLaCl₃、CeCl₃、

MgCl₂など)を生じます。

トイレ用洗剤の大部分は水であるため、生じた水溶性の物質は溶けていきます。

同時に、生じる水素は水にほぼ溶けないのでブクブクとトイレ用洗剤から

出て行ってしまいます。

 

【反応式】

Fe + 2HCl→FeCl₂ + H₂ (鉄 + 塩酸→塩化鉄(Ⅱ) + 水素)

2La + 6HCl→2LaCl₃ + 3H₂ (ランタン + 塩酸→塩化ランタン + 水素)

2Ce + 6HCl→2CeCl₃ + 3H₂ (セリウム + 塩酸→塩化セリウム(Ⅲ) + 水素)

Mg + 2HCl→MgCl₂ + H₂ (マグネシウム + 塩酸→塩化マグネシウム + 水素)

【補足1 塩酸について】

塩酸は塩化水素という物質を水に溶かしたものです。

そのため、「金属 + 塩酸→~」という書き方は本来は間違いであり

正しくは「金属 + 塩化水素→~」になります。

 

【補足2 元素記号と化学式について】

Fe:鉄, La:ランタン, Ce:セリウム, Mg:マグネシウム, HCl:塩化水素,

FeCl₂:塩化鉄(Ⅱ), LaCl₃:塩化ランタン, CeCl₃:塩化セリウム(Ⅲ),

MgCl₂:塩化マグネシウム, H₂:水素

 

【補足3 生じている物質について】

発火石中のレアアースは主にランタンとセリウムなのですが、

それ以外にPr(プラセオジム)やNd(ネオジム)といったレアアース

含まれています。

そのため、塩酸との反応でPrCl₃(塩化プラセオジム)やNdCl₃(塩化ネオジム)など

生じていますが、発火石中のレアアースの大部分はランタンとセリウムなので

省略しています。

 

発火石にトイレ用洗剤を加えた後の悪臭は何なのか? (操作④~⑦)

 スチールウールや鉄釘といった鉄製の物を塩酸や硫酸に溶かす際に

悪臭がする原因と同じだと考えられます。

スチールウールや鉄釘に使われている鉄には不純物として炭素やケイ素、

硫黄、リンが鉄と結びついた形で存在しています。

(機能性をあげるために加えられている場合もある)

そこに、塩酸や硫酸を加えると鉄と結びついていた不純物は炭化水素

シラン、硫化水素、ホスフィンといった悪臭のするガスが生じます。

これが、スチールウールや鉄釘などを塩酸や硫酸に溶かす際に

悪臭がする原因です。

 発火石を構成する金属に鉄が使われています。

この鉄に含まれていた不純物がトイレ用洗剤中の塩酸と

反応したことでスチールウールや鉄釘と同じように悪臭がする

ガスが発生したと考えられます。

 

残った黒い粉の正体は何なのか? (操作⑦)

 先に答えを書いてしまうと、黒い粉の正体は鉄です。

発火石を構成している金属はどれも反応しやすい金属です。

その中で、鉄を除いた金属は特に反応しやすい金属であるため、

鉄よりも早くトイレ用洗剤中の塩酸と反応していきます。

その結果、鉄(黒い粉)が溶け残ってしまうことになります。

 

硫酸アンモニウムを加えて生じる固体(沈殿)は何か? (操作⑧~⑩)

 発火石とトイレ用洗剤(塩酸)の反応で生じた水溶性物質は

+の電気を帯びたイオン(陽イオン)と-の電気を帯びたイオン(陰イオン)に

解れた(電離)状態で水に溶けています。

また、加えられた硫酸アンモニウムも水に溶けると電離しています。

 

【電離】

FeCl₂→Fe²⁺ + 2Cl⁻ (塩化鉄(Ⅱ)→鉄(Ⅱ)イオン + 塩化物イオン)

LaCl₃→La³⁺ + 3Cl⁻ (塩化ランタン→ランタンイオン + 塩化物イオン)

CeCl₃→Ce³⁺ + 3Cl⁻ (塩化セリウム(Ⅲ)→セリウム(Ⅲ)イオン + 塩化物イオン)

MgCl₂→Mg²⁺ + 2Cl⁻ (塩化マグネシウムマグネシウムイオン + 塩化物イオン)

(NH₄)₂SO₄→2NH₄⁺ + SO₄²⁻ (硫酸アンモニウムアンモニウムイオン + 硫酸イオン)

 

【補足4 イオン式について】

Fe²⁺:鉄(Ⅱ)イオン, Cl⁻:塩化物イオン, La³⁺:ランタンイオン,

Ce³⁺:セリウム(Ⅲ)イオン, Mg²⁺:マグネシウムイオン,

NH₄⁺:アンモニウムイオン, SO₄²⁻:硫酸イオン

 

 La³⁺やCe³⁺を含む水に電離するとSO₄²⁻を生じる物質を沢山加えると

La³⁺やCe³⁺とSO₄²⁻が結びついて硫酸ランタンと硫酸セリウム(Ⅲ)という

水に少し~やや溶けにくい物質が生じるため沈殿します。

厳密には元々SO₄²⁻と結びついていた陽イオンが取り込まれて沈殿します。

今回の実験でSO₄²⁻に元々ついていた陽イオンアンモニウムイオンであるため

生じた物質は硫酸ランタンアンモニウムと硫酸セリウム(Ⅲ)アンモニウムになります。

硫酸ランタンアンモニウムはランタン、硫酸セリウム(Ⅲ)アンモニウムには

セリウムが含まれており、ランタンとセリウムはともにランタノイドです。

そのため、今回の実験によってライターの石である発火石から

ランタノイド(ランタンとセリウム)を分離することができたことになります。

 

粉状沈殿が無くなって粒状結晶ができるのは何故か? (操作⑩~⑪)

 必ず起こるとは限りませんが、生じた粉状沈殿を置いておくと、

粉状の沈殿は消えて行って粒状結晶が生じることがあります(図1)。

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図1 粉状沈殿から粒状結晶への変化

この現象が起こる条件と何が起こっているのかについては

現在まで特定には至ってはいません。

この現象については①沈殿の熟成、②安定な結晶への変化の

二つのどちらかが原因ではないかと考えています。

詳細はやや難しい内容のため、番外編に書いておきます。

この記事ではざっくりとした解説を書くと

【①沈殿の熟成】

沢山の小さい結晶を含む液体(今回だと水)を置いておくと

粉状沈殿は溶けていき、数の少ない大きい結晶がさらに大きくなる

という現象があります(目視でわかる程大きくなるとは限らない)。

もの凄く大雑把ですが上記の減少を沈殿の熟成(オストワルト熟成)と

呼びます。

今回、粉状沈殿が小さい結晶であったため、この現象が起きたと

考えています。

 

【②の安定な結晶への変化】

結晶というのは原子や、分子、イオンがある規則に従って周期的に

並んでいる固体のことです。

同じ物質でも周期的に並ぶ規則が異なることがあります。

その場合、同じ物質でも異なる結晶が生じることになります。

同じ物質でも結晶が異なるとエネルギー的に安定な結晶とやや不安定な結晶が

存在することになります。

そして、エネルギー的にやや不安定な結晶を置いておくと、

エネルギー的に安定な結晶に変化する事があります。

今回、粉状沈殿はエネルギー的にやや不安定な結晶で粒状結晶が

安定な結晶であったと考えています。

 

沈殿または結晶に水とトイレ用洗剤を混ぜたものをかけるのは何故か? (操作⑫)

 必要なのは硫酸ランタンアンモニウムと硫酸セリウム(Ⅲ)アンモニウムである

粉状沈殿または粒状結晶です。 

粉状沈殿と粒状結晶は固体であるためろ過をすることで、必要でない物質(不純物)を

含んでいる水と分離することができます。

けれども、粉状沈殿と粒状結晶の表面には不純物を含む水が

付いたままになっています。

そのため、不純物を含む水を取り除くために水とトイレ用洗剤を混ぜたものを

かけます。

この時、普通の水で洗浄すると粉状沈殿と粒状結晶が溶けて量が減るなど

別の問題が起こるのでトイレ用洗剤を加えています。