【番外編】 ライターの石からレアアース硫酸塩を合成する
「ライターの石からレアアースを分離する」というタイトルで
硫酸ランタンアンモニウムと硫酸セリウム(Ⅲ)アンモニウムを合成する方法と
一般人向けの解説を紹介しました。
この記事では「ライターの石からレアアースを分離する」に関して著者の不明点や
紹介できなかった補足、個人的な考察を書いていきます。
加えて、今まで書いてきたのはなるべく化学をやっていない人でも
解るように書いてきましたが、この記事では大学の化学の初歩的な内容を
学んでいる人向けに書かせてもらいます。
ただ、著者がポンコツなので知性や学を感じ無い内容になるのはご承知おきください。
沈殿が溶解して四角い結晶が成長する現象について
発火石から希土類硫酸塩を作る際、まれに沈殿を静置しておくと
沈殿は溶解して結晶が析出してくることがあります(図1)。
この現象が起こる条件と原因については現在のところ解明には至ってません。
ただ、下記の条件のヒントとなるような事が解っています。
・冬や初春に行うと稀に確認できるが、それ以外の季節では確認されてない。
(気温の高い季節に確認されてないだけで、起こる可能性も否定できない)
・上記の条件に加えて発火石を溶かした液をろ過する際に、ろ液を入れる
ビーカーにあらかじめ(NH₄)₂SO₄を入れておくと稀に起こる。
(綺麗な沈殿を作るという点では上記の方法は不適当ではある)
これらの条件のヒントから、①沈殿の熟成、②多形or擬多形への変化が
原因ではないかと考えています。 以下、それぞれの仮説について書いていきます。
【①沈殿の熟成】
沈殿の熟成において、多数の小さな沈殿粒子(結晶)が溶解すると同時に、
別の沈殿粒子が成長していくという現象は、(NH₄)₂SO₄を加えて生じた沈殿が
母液中で四角い結晶になるという現象と類似しています。
また、多くの塩や水酸化物は温度が上がると溶解度が上がるため沈殿の熟成を
行う際には加熱を行いますが、希土類の硫酸塩は温度が上がると溶解度が
下がるため、温度が低い状態の方が沈殿の熟成は進みやすくなる可能性があります。
加えて、沈殿から四角い結晶ができる現象は液温が低くなる気温が低い
時期にしか確認されていません。
【②多形or擬多形への変化】
そもそも(NH₄)₂SO₄を加えて生じた沈殿とその後に析出した四角い結晶が
同じ結晶なのか、異なる物質なのかですら解ってはいない。
私は、(NH₄)₂SO₄を加えて生じた沈殿とその後に析出した四角い結晶が
多形または擬多形の関係にあるのではないかと考えている。
生じた沈殿の一部と、沈殿の残りから析出した結晶のPXRD測定を行えば
同じ結晶か違う結晶なのか知ることができる。
また、希土類硫酸塩やそのアンモニウム複塩のような単純な化合物であれば
(既に構造解析も行われているはずなので)恐らく結晶データベースに
載っているため、シミュレーションパターンとの比較で物質の同定も行える。
ただし、機器測定は外部の研究機関に測定してもらう必要があり、
その測定も当然有料である。また、測定を行うには手続きが必要であるが、
面倒そうなので中々一歩が踏み出せないのが現状である。
得られた固体の組成について
この実験では最も重要な事である最終的に得られた固体(粉末、結晶)の
組成が何なのかですら解ってはいない。
XRDによって得られた物質を同定を行うことができるが、先ほど書いた理由で
行えたはいない。
ただし、得られた固体はアンモニウム複塩である可能性は非常に高いと考えている。
その理由として私が以前紹介した硫酸ネオジムアンモニウムの合成の実験がある。
この実験では、今回の実験と同様に希土類(Nd³⁺)を沈殿させるために(NH₄)₂SO₄を
用いている。そして最終的に得られた結晶のIRスペクトルの測定を行っており、
N-Hに由来するピークが確認されているためアンモニウム複塩であるということが
解っている。
信頼性が低くなるが、古典的な重量分析であれば固体の組成を家で決定することが
可能である。ただし、得られた固体にはLa³⁺とCe³⁺が混ざっているためそれぞれを
定量する分、手数が増えてしまう。
また、得られた固体中の希土類はLaとCeが大部分を占めるが、他の軽希土類も
少量含まれているため、その分の重量が測定結果に影響してくる可能性が考えられる。
もし、家で重量分析を行う場合は、下記の方法で各イオンを定量することになる。
水(結晶水):加熱前の固体重量から加熱後の重量の差分から
Ce³⁺:CeO₂として回収し、その重量から(酸化剤を探す必要がある)
La³⁺:固体中の希土類を(水)酸化物として定量後、Ce³⁺との差分から
SO₄²⁻:CaSO₄として回収し、その重量から
NH₄⁺:固体の重量から結晶水、Ce³⁺、La³⁺、SO₄²⁻を引いた差分から
組成を決定するために重量分析を行うとなると、そこそこの量の
試料としての固体と純度が良い沈殿剤が必要となる。
そういったものの準備と測定に費やす時間を考えると労力やコスト、
時間がかかるため結局のところ何も行えてないのが現状である。
再結晶によって2種類の結晶が確認される
実験を最後まで(粉末の再結晶まで)行うとダイヤ型の四角い結晶に混じって
少量の柱状の結晶が確認されることがある。
XRD測定で同定すればすぐに解決する事であるが上記の2種類の結晶の違いは
何なのか解ってない。考えられる可能性として①多形or擬多形、
②金属イオンとNH₄⁺の比が異なる複塩、③硫酸アンモニウムがある。
【①多形or擬多形】
溶けている物質は1種類なのにそこから析出する結晶は多形or擬多形の関係にある
2種類の結晶である場合がある(結晶によって機能性の有無がある場合、析出条件は
重要です)。もし、四角い結晶と柱状結晶が多形や擬多形の関係であるのなら
析出量の少ない柱状結晶のみを再結晶して見てどちらの結晶が析出するか
確認する必要がある。
【②金属イオンとNH₄⁺の比が異なる複塩】
硫酸セリウムアンモニウムについては不明ではあるが硫酸ランタンアンモニウムにはLa³⁺:NH₄⁺の比が1:1、1:3、1:5、1:6、2:5の複数が知られているため
組成比が異なる複塩が析出した可能性がある。
【③硫酸アンモニウム】
析出した柱状の結晶は硫酸アンモニウムの結晶と類似している。
そのため、不純物というよりは再結晶時に複塩にならなかった
硫酸アンモニウムが結晶として析出した可能性がある。
これに関してはその結晶のみを回収してから水に溶解後、アンモニア水や
Na₂CO₃水溶液といった塩基の水溶液を加えて水酸化物や塩基性炭酸塩の
沈殿有無を確認すれば希土類の複塩かどうかを判別することができる。