家でできる実験

身近な物を使って家でできる化学実験を紹介したり、化学の話をするブログです。

身近な物でガラス?を作ってみよう(溶球反応・ホウ砂球) 解説編

イントロ

 実験編では身近な物で色付きと色無しのガラス状のものを作る実験を

紹介しました。解説編では他の実験の記事と同じように実験の原理、

具体的には何が起きていたのかを説明していきます。

iedejikken.hatenablog.com

何故、前もってステンレスの針金を火に入れるのか?(操作⑤~操作⑥)

今回の実験ではステンレスの針金に付けたホウ砂を火に入れる必要があります。

しかし、火に入れていないステンレスの針金をホウ砂に触れさせても全然

くっついてはくれません。一度、火に入れて高温になったステンレスの針金を

ホウ砂に触れさせると、熱でホウ砂が溶けて針金やホウ砂同士がくっついてくれます。

この作業をすることでステンレスの針金に付けたホウ砂を火に入れる事が

できるようになります。

 

ホウ砂を火に入れると何が起こっているのか?(操作⑦~操作⑧)

まず、ホウ砂とは四ホウ酸ナトリウム10水和物という物質です。

四ホウ酸ナトリウム10水和物は加熱されると、四ホウ酸ナトリウム無水和物と水に

分解します。

Na₂B₄O₇・10H₂O→Na₂B₄O₇ + 10H₂O(Na₂B₄O₇・10H₂O:四ホウ酸ナトリウム10水和物、

Na₂B₄O₇:四ホウ酸ナトリウム無和物、H₂O:水)

この反応で生じた水は火の熱によって水蒸気になります。

体積が大きい気体である水蒸気が生じた結果、針金についたホウ砂が

モクモクと膨らんだように見えます。

さらに加熱を続けると四ホウ酸ナトリウム無水和物がメタホウ酸ナトリウムと

酸化ホウ素(無水ホウ酸)に分解します。

Na₂B₄O₇→2NaBO₂ + B₂O₃ (NaBO₂:メタホウ酸ナトリウム、B₂O₃:酸化ホウ素)

この反応が終わると透明なガラス状のものが曲げた針金の中にできます。

 

ホウ砂を火に入れると火の色が黄色っぽくなるのは何故か?(操作⑤)

この現象は味噌汁などの塩分を含む水をガスコンロに吹きこぼした際、

火の色が黄色に見えたり、花火で黄色に見えるものと原理は同じです。

この現象は炎色反応と呼ばれます。炎色反応については今回の実験のメインではない

という事や簡単に行る実験なので色々な実験を扱うサイトで取り扱われているので

原理については割愛します。

 

ガラス状のものに何故色が付くのか?(操作2-⑨)

 ガラス状のものに色が付く原理は以下の二つのステップ経ています。

・ステップ1)重金属の化合物の分解

ガラス状のものに付いた重金属の化合物は火で加熱される事により、

分解して最終的には重金属の酸化物(重金属の錆のようなもの)になります。

物質と条件によっては金属の細かい粒子に変化するものもあります。

・ステップ2)重金属の酸化物とガラス状のものの反応

ガラス状のものにはメタホウ酸ナトリウムと酸化ホウ素が含まれています。

ここに重金属の化合物から生じた重金属の酸化物が加わると

メタホウ酸ナトリウムや酸化ホウ素と反応して重金属のメタホウ酸塩が生じます。

生じた重金属のメタホウ酸塩は含まれる重金属によって特有の色が付いているため

ガラス状のものに色が付きます。

ガラス状のものに付く色というのは重金属の種類及び加熱条件によっても異なるため、

最終的についた色から重金属の種類を知る事ができます。

詳細及び実験編での色については次の溶球反応(ホウ砂球反応)とその次の

今回の実験の結果について(酢酸銅を使った結果)で解説します。

 

溶球反応(ホウ砂球反応)

今回、扱った実験のようにホウ砂を加熱して作ったガラス状のものを使って

重金属の種類を当てる分析方法を溶球反応と言います。

溶球反応において今回の実験のようにホウ砂を使う方法をホウ砂球反応、

リン酸水素ナトリウムを使う方法をリン塩球反応と呼びます。

溶球反応では最終的にガラス状のものに付く色からくっつけた重金属の種類を

判別する事ができます。但し、重金属の種類によっては色が付かない物、

種類は異なる重金属なのに付く色が同じになるものもあります。

また、重金属の種類は同じでも加熱する際に酸化炎(赤い炎)で加熱した時と

還元炎(青い炎)で加熱した時、温まっている時と冷めた時で色が異なるものも

あります。異なる重金属でも付く色が同じというケースがあるため、溶球反応だけで

完全に重金属の種類を特定する事ができません。そのため、溶球反応は簡易的な分析や

本格的な分析を行う前の確認で行われる分析方法です。

そうは言っても、今の時代は分析で使用する機械が発達しているので、

溶球反応で重金属の種類を調べるという事はほぼありません(教育の場合を除く)。

 溶球反応では重金属の種類以外の条件でも色が変わると書きましたが

具体的にはどのような色になるかと思うかもしれません。

 身近にある重金属(正確には別の物質と反応させて化合物にする必要がある)で

ホウ砂球反応を行った際にどのような色になるのかを表1にまとめておきます。

                                           表1

f:id:iedejikken:20220205165449p:plain

家庭用コンロで行った場合は基本的に青い炎なので還元炎の結果になります。

 

今回の実験の結果について(酢酸銅(Ⅱ)を使った結果)

 今回の実験では酢酸銅(Ⅱ)を使ってガラス状のものに赤(赤茶)色を付けました。

酢酸銅(Ⅱ)は重金属である"銅"の化合物です。そして今回は家庭用のガスコンロを

使用したので炎は青い炎なります。そのため、表1を見るとホウ砂球反応の結果は

赤色になります。そのため、今回の実験はうまくいっている事が確認できました。

f:id:iedejikken:20220205175107j:plain

図1、酢酸銅(Ⅱ)を使ったホウ砂球反応の結果

還元炎で銅の化合物を使ったので赤色になっている。



硫酸ネオジムアンモニウムを使えば色が光で変わるガラス状のものが作れるのでは?

このブログでは光で色が変わる硫酸ネオジムアンモニウムの結晶の作り方を

紹介しています。硫酸ネオジムアンモニウムは重金属であるネオジムの化合物です。

そのため、硫酸ネオジムアンモニウムを使ってホウ砂球反応を行えば、

光で色が変わるガラス状のものができると思うかもしれません。

けれども、残念ながらホウ砂球反応でネオジムを使っても光で色が

変わる以前に色が付きません。

学生時代の自分はバカだったので(今もバカでーすけど)、光で色が変わるものを

作れると思い(当時は僅かにしか作れなかった)硫酸ネオジムアンモニウムを使って

ホウ砂球反応をやって、ダメだったという事を確認しております。

また、後から外国の古い専門書(本の名前を忘れるという致命的ミスをしました)で

調べてもホウ砂球反応においてネオジムでは色が付かない事を確認しています。