2日間で青い結晶(酢酸銅)を作る 解説編
イントロ
実験編では身の回りの物を使って青い結晶(酢酸銅)の作り方を紹介しました。
解説編では実験の原理、具体的には何が起こったのかについて説明していきます。
短時間で書き上げた記事となるので実験編も含めて記事のクオリティに関しては
恐らく今まで書いた記事に劣っていると思います。
そのため、近いうちに原理について追加したり細かい点を修正したする予定です。
- イントロ
- 一日目(午前)では何が起きているのか? (一日目(午前)の操作①~⑩)
- 茶色い物の正体は何なのか?
- 一日目(午後)では何を行ったのか? (一日目(午後)の操作①~⑥)
- お酢の除草剤を加えると何が起こるのか?(一日目(午後)の操作⑦~⑩)
- 何故、青い結晶ができるのか?
一日目(午前)では何が起きているのか? (一日目(午前)の操作①~⑩)
このブログで紹介している「調味料や洗剤で汚い十円玉は還元できない?」を
閲覧した方であれば気が付いたかもしれませんが一日目(午前)では水酸化銅(Ⅱ)を
作る操作を行っているます。水酸化銅(Ⅱ)を作る方法は幾つかありますが、
この実験では電気分解を利用しています。
電気分解は電気を流す液体に電源に繋げた二つの電極(金属や炭素のような電気を
流すもの)を入れて化学反応を起こす事を言います。
今回の実験において、電気を流す液体は食塩水、電極は銅(銅線)になります。
電気分解で電源の+極に繋げた電極では電子を失う反応が起こります。
一方、電源の-極に繋げた電極では電子を受け取る反応が起こります。
電極に銅を使って食塩水を電気分解すると+極に繋げた銅線では、
銅が電子を失って銅(Ⅱ)イオンが生じる反応が起こります。
Cu→Cu²⁺ + 2e⁻ (銅→銅(Ⅱ)イオン + 電子)
一方、-極に繋げた銅線では水が電子を受け取って水素と水酸化物イオンに分解する
反応が起こります(そのため、-極に繋げた銅線では食塩水中に気泡が生じている)。
H₂O + 2e⁻→H₂ + 2OH⁻ (水 + 電子→水素 + 水酸化物イオン)
これらの反応によって、食塩水中にはCu²⁺(銅(Ⅱ)イオン)とOH⁻(水酸化物イオン)が
供給されることになります。
Cu²⁺はOH⁻と出会うと水に溶けにくいCu(OH)₂(水酸化銅(Ⅱ))という物質を生じます。
Cu²⁺ + 2OH⁻→Cu(OH)₂ (銅(Ⅱ)イオン + 水酸化物イオン→水酸化銅(Ⅱ))
この物質は水色をしているため、一日目(午前)の操作⑩の後に
ガラス容器の底面を見てみると茶色の物に混じって水色の沈殿が見られます。
茶色い物の正体は何なのか?
茶色い物の正体は銅の粉や銅の小さな塊です。今回の実験で+極に繋いだ
銅線では銅から銅(Ⅱ)イオンが食塩水中に供給される反応が起きています。
これは銅線が少しずつ溶けて行っている=腐食されていることと同じです。
その結果、銅線の表面は部分的にボロボロになって剥がれ落ちることで
銅の粉や銅の小さなか塊ができます。
また、電気分解を続けていると陰極では水から水素と水酸化物イオンが
生じる反応だけでなく銅(Ⅱ)イオンから金属の銅が生じる反応が起こります。
Cu²⁺ + 2e⁻→Cu
この反応によって-極に繋いだ銅線の表面に銅が付着することになります。
この付着した銅は部分的に取れやすくなっており、一部は銅線を外れて
銅の小さな塊となってしまいます。
一日目(午後)では何を行ったのか? (一日目(午後)の操作①~⑥)
一日目の(午前)で作った水酸化銅(Ⅱ)は食塩水の中に沈んだ状態になっています。
今回の実験で必要なのは水酸化銅(Ⅱ)であるため、食塩は要らない物質になります。
加えて、青い結晶を作る段階で食塩が残っていると青い結晶に混じって食塩の結晶が
紛れてしまう可能性があります。食塩の結晶が混じってしまうのを防ぐために
一日目(午後)の操作①~⑥では食塩を取り除く操作を行っています。
水酸化銅(Ⅱ)は水に全く溶けない物質ですが、食塩は水によく溶ける物質です。
そのため、食塩水の上澄み液を捨てた後、水を加えて上澄み液を捨てる操作を
繰り返すことで食塩の大部分を取り除く事ができます。
お酢の除草剤を加えると何が起こるのか?(一日目(午後)の操作⑦~⑩)
先に結論から書くと今回結晶として作りたい物質である酢酸銅(Ⅱ)ができます。
お酢の除草剤にはお酢の主成分である酢酸(化学式:CH₃COOH)が含まれています。
水酸化銅(Ⅱ)に酢酸を加えると酢酸銅(Ⅱ)(化学式:(CH₃COO)₂Cu)という水溶性の
物質が生じます。
2CH₃COOH + Cu(OH)₂→(CH₃COO)₂Cu + 2H₂O (酢酸 + 水酸化銅(Ⅱ)→酢酸銅(Ⅱ) + 水)
お酢の除草剤を加えると、茶色の物が減っていることに気が付くと思います。
茶色の物は銅の粉と小さな塊から成りますが、食塩を取り除く操作で水酸化銅(Ⅱ)と
混じった状態になっています(一日目(午後)の操作①~⑥)。
茶色の物の中の水酸化銅(Ⅱ)は(お酢の除草剤中の)酢酸に反応して無くなるため、
結果として茶色の物の量は減ることになります。
何故、青い結晶ができるのか?
密閉容器に酢酸銅(Ⅱ)が溶けた水を入れた容器とアセトンを一緒にしておきます。
すると、アセトンは揮発しやすいため密閉容器内に気化したアセトンが充満して
いきます。また、アセトンは水によく溶ける物質であるため気化したアセトンが
少しずつ酢酸銅(Ⅱ)が溶けた水に溶け込んでいきます。
その結果、酢酸銅(Ⅱ)を溶かしていたものが水では無く水とアセトンの混ざった
液体になります。酢酸銅(Ⅱ)はアセトンに溶けることはできますが、水と比べると
溶かせる量は少ないです。そして溶け込んだアセトンの量があるところを超えると
酢酸銅(Ⅱ)は溶けきれなくなって固体(結晶)として出てきます。
アセトンが溶けるにしたがって溶けきれなくなって固体として酢酸銅(Ⅱ)は
出てくるので時間が経つにつれて酢酸銅(Ⅱ)の結晶の量が増えたり、
結晶のサイズが大きくなったりします。
今回のように結晶にしたい物質が溶けた液体(今回は水)とその液体に混ざることが
できる揮発性の高い液体を一緒に密閉して結晶を作る方法を蒸気拡散法といいます。
分子の形や並び方を知る方法として結晶にX線を当てて、得られたデータを処理する
方法があります(単結晶X線構造解析)。この方法を行うには塩粒よりも少し小さい
宝石のように綺麗な結晶が必要です。
しかし、作った物質の綺麗な結晶を作ろうとしても粉のような細かい結晶や
表面にデコボコだったりヒビのあるような結晶しかできないこともあります。
そのため、綺麗な結晶ができない場合、蒸気拡散法で使う液体の組み合わせを
変えたり等、色々な方法を試すことがあります(ちなみに著者も苦労した一人です)。