綺麗な結晶の作り方(自由研究から、たぶん実験室レベルまで)
イントロ
ミョウバンや塩などの結晶を作る人は自由研究の定番の一つだと思います。
本ブログでも色々な物質を作り、結晶として取り出す実験を幾つか紹介しています。
この記事では綺麗な結晶を作る幾つかの方法をご紹介します。
構成として前半は簡単な用語の解説、後半は結晶の作り方の説明を書いています。
結晶の作り方の一つについては実例を別の記事で紹介しています。
気になった場合はそちらも読んでみると良いと思います。
基本的に前半部分は何となく見ておいて、後半でわからなくなったら読み返す
程度で良いと思います。
綺麗な結晶について
綺麗な結晶には以下の二つの意味があります。
①"見た目が"綺麗な結晶
②"純度が"綺麗な結晶
この記事では基本的に自由研究向けであるため①の綺麗な結晶を作る方法を
紹介しています。但し、後半で紹介する方法については研究室でも結晶を作る際に
用いられている基本的な方法(誰もが知っている手法ですが)であるため、
単結晶X線回折用の試料作りで悩んでいる人の役に立てれたら幸いです。
そもそも、結晶とは何か
結晶とは物質を構成している原子、イオン、分子が規則正しく周期的に
並んでいる固体の事を言います。"ここで周期的に並んでいる固体"と書きましたが
世の中には原子などが不規則に並んでいる固体が存在しており、非晶質または
アモルファスと呼ばれています。
溶媒と溶質、溶液について
何かしらの物質が溶けている液体の事を溶液と言います。
溶液において溶かしている液体の事を溶媒と言います。
そして、溶媒に溶けている物質の事を溶質と言います。
溶媒と溶質、溶液について具体例を挙げると塩を水に溶かしたものは溶液になります。
そして、水は塩を溶かしている液体になるため溶媒、塩は溶媒(水)に溶けている
物質なので溶質になります。
※溶質は必ずしも固体とは限りません。溶質が気体や液体の場合もあります。
また、液体同士を混ぜ合わせたもの(溶液)の場合、体積が多い方が溶媒になります。
溶液について
溶液は使用している溶媒をわかるようにするために「溶媒の名称+溶液」と
呼ばれることが多くあります。溶媒が水の場合は水溶液と呼ばれます。
●●溶液という呼び方だけでは溶けている物質(溶質)が何か解りません。
溶質の情報を入れる場合は「溶質の名称+溶媒の名称+溶液」と呼びます。
例として塩化ナトリウム(食塩の主成分)を水に溶かしたものは
「塩化ナトリウム水溶液」よ呼ぶことになります。
溶解度と飽和溶液
コップに入れた水に塩を入れていくとあるところで溶けきれなくなってしまいます。
このように溶媒には溶質を溶かせる限界の量があります。
ある溶媒に限界まで溶かせる溶質の量を溶解度と言います。
一般的に溶解度は溶媒100g当たりの量が記載されます。
そして、溶解度まで達している(これ以上溶質を溶かせない)溶液の事を
飽和溶液と言います。
溶解度で注意するべきことは同じ溶質と溶媒の組み合わせでも温度が
異なれば溶解度も変わるという事です。
例として、スクロース(砂糖の主成分)は10℃の水100gに195g溶けますが、
40℃の水100gには235g溶けます。
(一般的に溶媒の温度が上がると溶解度が上がるものが多いが、
逆に溶媒の温度を上げると溶解度が下がる物質も存在する)
加えて、溶質が同じでも溶媒が異なれば溶解度も異なりますし、
溶媒が同じでも溶質が異なれば溶解度は異なります。
結晶ができるときについて
溶液から結晶ができるという事は、その溶液は飽和溶液となっており、
溶けきれなくなった分が結晶になっていることになります。
そのため、結晶を作るということは何かしらの方法で溶液の溶解度を
下げてあげる必要があります。溶解度を下げる操作はゆっくりと
行うと大きくて綺麗な結晶ができやすくなります。
結晶ができる際には何かしらの核となるものが必要であり、
核を中心に結晶は大きくなっていきます。
溶液中にホコリなどが混入や不純物の固体が残留していると、これらを核として
結晶が成長します。溶液中に不純物の固体が含まれているとそれらを核として
結晶が成長した結果、見た目は粉末状の細かい結晶が大量にできやすくなります。
そのため、綺麗な結晶を作る際には前もって溶液をろ過して不純物の固体をできるだけ
除去しておく必要があります(ろ過しなくても見た目が綺麗な結晶ができる場合も
あります)。
結晶の作り方
ここから結晶の作り方について基本的な3つの方法(①~③)を紹介していきます。
⓪ろ過をする
自由研究で結晶を作る際に地味に行われていませんが、結晶を作る前に
ろ過を行っておくと綺麗な結晶ができやすくなります。
①濃縮を使う方法
結晶を作りたい物質の濃い溶液を置いておくと、溶媒が徐々に蒸発していきます。
やがて、溶けていた溶質が残っている溶媒に対する溶解度を超えるため、
超えた分が結晶として出てきます。
ポイント1:
ホコリやゴミの混入を防ぐためにティッシュやペーパータオルを被せること。
(ティッシュを使うと自身の細かい繊維が混入することがあります)
もしも、キムワイプやプロワイプがあればこちらを使用する。
(被せたものは風で飛ばないように輪ゴム等で固定する事)
ポイント2:
風通しの良い場所に置くとやや早く濃縮されるため結晶ができるまでの
時間を少しだけ短くできる。
実験室であればドラフトチャンバー無いに置いておくと結晶析出までの
時間をやや短くできる(試料が汚染される可能性があるため注意!)
ポイント3:
溶液の濃度が低いと飽和溶液になるまでに時間がかかるため、加熱して濃縮する事で
結晶が出てくるまでの時間を短くすることができます。
但し、加熱によって溶質が分解するなどの問題がある場合は行うことができません。
温度調節可能な実験用オーブンが使えるなら、低い温度で加熱してゆっくりと
濃縮するという方法もあります(定期的に見ないと乾固するので注意)。
また、ロータリーエバポレーターを使って濃縮するという手もあります。
②温度を変える方法
一般的に、温度が低くなるにつれて溶解度は小さくなります(例外あり)。
結晶を作りたい物質の溶液を冷却すると、溶けていた溶質が
その温度の溶解度を超えるため結晶として出てきます。
ポイント1:
冷却してもすぐに結晶が出てこないことがある。
場合によっては2~1週間後に出てくることもあります。
ポイント2:
複数の低い温度が用意できるなら試すこと。
但し、溶媒の凝固点(溶媒が水なら凍る温度)以下に原則しない。
実験室に複数のインキュベータや実験用の冷蔵庫があるなら、
溶液を複数に分けてそれぞれの温度(例、冷凍庫、5℃、10℃、15℃)で置いておく。
③他の溶媒を混ぜる方法
塩水にエタノールを加えていくと溶けていた塩が細かい結晶(見た目は粉末)として
出てきて沈みます。
エタノールは水に溶けることができますが、塩はエタノールに溶けません。
そのため、塩水にエタノールを加えていくとエタノールに塩が入っているような
状況になるため塩が溶けることができずに出てきます(本当は別の理由出てきます)。
塩水へ非常にゆっくりとエタノールを加えていくと、ある時点で溶解度を超えて
出てきた塩の小さい結晶を核として結晶が大きくなっていくため綺麗な結晶が
できやすくなります。
このように使用している溶媒とは別の溶媒を入れて溶解度を下げることで
結晶を作ることができます。
この際、溶解度を下げるために加えられる溶媒を貧溶媒と呼びます
(逆に溶質を溶かすのに使用している溶媒は良溶媒と呼びます)。
普通、結晶にしたい物質の溶液に貧溶媒を一気に入れると、見た目は粉末状の
細かい結晶が沢山できてしまいます。
貧溶媒を加えて大きな結晶を作るには貧溶媒がが少しずつゆっくりと
混ざるようにする必要があります。
大きな結晶を作るために貧溶媒を加える方法としては主に以下の2つがあります。
(1)貧溶媒を蒸気にして少しずつ結晶にしたい物質の溶液へ溶かしていく方法
(2)結晶にしたい物質の溶液の上に貧溶媒の層を作り(つまり2層になる)、
放置して少しずつ貧溶媒を混ぜる方法。
(1)の方法(蒸気拡散法)について
小さな容器に結晶にしたい物質の溶液(例えば塩水)を入れておきます。
一方で大きな容器に揮発しやすい貧溶媒(=結晶にしたい物質を溶かさない溶媒)
(例えばエタノール)を入れておきます。
貧溶媒を入れた大きな容器に結晶にしたい物質の溶液が入った小さな容器を
入れて密閉しておくと、大きい容器に入れておいた貧溶媒が少しずつ蒸発するため。
大きな容器内は貧溶媒の蒸気で充満した状態になります。
充満した貧溶媒は小さい容器内の溶液に少しずつ溶けていきます。
最終的に小さな容器内は大きな容器に入れておいた溶媒がある程度入った
状態になるため、溶媒に溶けていた物質の結晶として出てきます。
このように密閉空間内でを貧溶媒を蒸発させて結晶を作る方法を
蒸気拡散法と言います。
蒸気拡散法での結晶の実例を知りたい場合は以下の記事を参考にしてください。
(2)の方法について
容器に(濃い目の)結晶にしたい物質の溶液を入れて置き、ここへ静かに貧溶媒を
入れると(うまくいけば)溶液は2層になった状態になります。
この状態で放置しておくと2層は少しずつ混ざり合っていきます。
貧溶媒が混ざった結果溶解度が下がるので結晶が出てきます。
貧溶媒は必ずしも揮発しやすいとは限りらないため、揮発しにくい貧溶媒を
使う際にこの方法は使うことができます(揮発しやすい貧溶媒でも行えます)。
ポイント1:
結晶を作る際に、どの溶媒が結晶を作りたい物質を溶かせるか(=良溶媒になるか)、
溶かせないか(=貧溶媒として使えるのか)を知る必要があります。
ポイント2:
良溶媒と貧溶媒として使える溶媒が解ったら、結晶にしたい物質を良溶媒に溶かし、
どの貧溶媒との組み合わせで綺麗な結晶ができるのか確認を行います。
ポイント1&2について実験室でやる場合の参考例
Step1 沢山の5mlのバイアル瓶またはオートサンプラー用バイアル瓶を用意する。
Step2 結晶にしたい試料をスパチュラのスプーンの部分の1/4~1/3(多いかも)を
Step1で用意したバイアル瓶に入れていく。(オートサンプラー用バイアル瓶の口 は狭くスパチュラじゃ入れることが不可のため1/4に切った薬包紙を使って入れる)
Step3 試料を入れたバイアル瓶1本に対して1種類の溶媒を1mlずつ入れていく。
(マイクロピペッターを使えば楽に測って入れられます)
どのくらい溶け残った場合も1/3ぐらい溶けたなど記録すると後で役に立ちます。
Step4 バイアルの蓋を閉めて軽く振り溶解するか確認する。
溶解に時間がかかる物質もあるため、最低でも1日静置して確認する。
光や室温で分解する物質もあるため静置する場所は考えておくこと。
押し込むタイプの蓋のサンプル瓶だと揮発性の溶媒を中に入れた際に
蒸発した溶媒の圧で蓋が飛ぶ可能性があるため使用は避けた方が良いです。
Step5 どの溶媒に試料が溶解するのか、溶解しないのかを記録する
Step6 試料を溶解できる溶媒と溶解できない溶媒が混ざるのかどうかを調べる。
実際に確かめなくてもネットで調べると汎用溶媒については表として
出てくるので参考にすると時間と試薬が無駄にならずに済みます。
※表にはジエチルエーテルとDMF(N,N-ジメチルホルムアミド)が混ざると
書いてあるものもあるが実際にはエーテルが少ししか溶けない。
Step7 Step6から混ざる組み合わせを探す。組み合わせの中で試料を溶解しない溶媒が
揮発しやすい(=沸点が低い)ものであるなら、その組み合わせで蒸気拡散法を
行える。試料を溶解しない溶媒の沸点が高い場合、(2)の方法で結晶を
作成してみる。
Step8 結晶を作成する際には1つの溶媒の組み合わせ行う場合、試料の溶液を
三つに分けて蒸気拡散法を行う事。
結晶作成は条件が同じでもうまくできるとは限らないため、試料の溶液を
分割せずに行うと一つの条件本当にうまくいくのか解らなくなる。
Step9 (2)の方法で結晶を作成する場合、試料の溶液を入れた容器の上から
貧溶媒を入れて2層にするのが難しい人がいるかもしれない。
その場合は、ギリギリまで試料を入れた小さいサンプル管を
大きい容器に入れ。サンプル管の口よりも少し上になるまで
貧溶媒を大きい溶液に加えて放置することで難易度は低下する。
Step10 基本的であり非常に重要な事であるが、結晶にしたい試料の溶液は
前もってろ過を行っておく事。
不純物の粒子や埃などが混入するとそれを核にして結晶が成長するため
粉末状の結晶しか生じない場合がある。
結晶作成する際に使用する溶液の量は少ないため、紙のろ紙を使った
ろ過を行うよりもシリンジに取り付けるタイプのフィルターを使う方が
お勧めです。このフィルターは紙のろ紙よりも孔径が小さいので
より多くの固体を除去できます。
文字数が多いので一応ここまでにしておきます。
この記事では一般の人向けをメインに結晶を作りの知識にあたる事を書きました。
多分、(実験室でやる)結晶を作るやり方について別の記事で書いた方が
良いと感じたのでやる気と時間があったら書いてみようかなと思います。
更新履歴(試験導入)
2021/1/23 不足していた本文の追加と修正
2021/1/17 不足していた本文の追加と修正
2021/1/15 更新履歴と参照記事へのリンク及び、本文修正
2020/11/24 記事投稿