調味料や洗剤で汚い十円玉は還元できない? 後編
後編では、酸化銅(Ⅱ)に調味料(お酢)やトイレ用洗剤を加えてみて
その様子がどうなるかを確認を行います。
そして、最後にこの実験と汚い十円玉が綺麗になるメカニズムについて解説します。
実験方法・やり方
2. 酸化銅が還元されるのか確認する
2-1 調味料(お酢)を使った場合
① プラスチック製のスプーンを使って一つまみ分の酸化銅(Ⅱ)を
プラスチック製カップに入れる
使って少しずつ加える。
③ 小さな円を描くようにカップを回す。
④ 変化を確認する。
⑤ 黒色の酸化銅(Ⅱ)が無くなるまで②~④を繰り返す。
2-2 トイレ用洗剤を使った場合
① プラスチック製のスプーンを使って一つまみ分の酸化銅(Ⅱ)を
プラスチック製カップに入れる
② ①のプラスチック製のカップにトイレ用洗剤をスポイトやスプーンを
使って少しずつ加える。
③ 小さな円を描くようにカップを回す。
④ 変化を確認する。
⑤ 黒色の酸化銅(Ⅱ)が無くなるまで②~④を繰り返す。
2-3 トイレ用洗剤(塩酸)に銅は溶けるのか確認
① プラスチック製のカップに約1cmの長さの銅製針金を入れる。
② ①のプラスチック製のカップにトイレ用洗剤を加える
③ 小さな円を描くようにカップを回す。
解説
十円玉の錆は何か? そもそも汚くなった十円玉はどうなっているのか?
十円玉は銅という茶色い金属と少量の亜鉛とスズという金属で作られています。
銅は湿った空気中に長い間放置されると、その表面に錆が生じるため、
黒や緑色になったりします。十円玉は人が使っていくうちに、その表面の錆が
生じてしまったり、汚れが付いていくことで汚くなっていきます。
そもそも、還元とは何か? 汚い十円玉が還元されるとどうなるか?
還元とその対義語の酸化とは何なのかざっくりまとめると表1のようになります。
表1 酸化と還元について
酸化と還元は酸素原子の授受についてが一般的に知られていますが、
状況や見方によっては水素原子や電子に関するものもあります。
詳細については、時間があるときに記事にしたいと思います。
さて、銅が錆びて酸化銅(Ⅱ)になるということは酸素原子を受け取ることになるので
酸化になります。そのため、酸化銅(Ⅱ)が還元されるということは酸素原子を
失って金属の銅に戻ることになります。
何故、調味料やトイレ用洗剤で十円玉が綺麗になるのか?
十円玉は銅でできているため、酸化銅(Ⅱ)という錆が生じます。
調味料や洗剤で銅の錆である酸化銅(Ⅱ)が還元されるのであれば
金属の銅が生じるはずです。
しかし、酸化銅(Ⅱ)に調味料(お酢)やトイレ用洗剤を加えて混ぜてみると
酸化銅(Ⅱ)は溶けて無くなってしまいます。
(※茶色いかけらは銅製針金から剥がれ落ちた破片です)
これは、酸化銅(Ⅱ)とお酢中の酢酸、酸化銅(Ⅱ)とトイレ用洗剤中の塩酸が
反応して水溶性の物質が生じたからです。
書くまでもないですが、お酢やトイレ用洗剤には様々な成分が含まれていますが
その大部分は水であるため、反応で生じた水溶性物質はどんどん溶けていきます。
【お酢の場合の反応式】
CuO + 2CH₃COOH→(CH₃COO)₂Cu + H₂O (酸化銅(Ⅱ) + 酢酸→酢酸銅(Ⅱ) + 水)
【トイレ用洗剤の場合の反応式】
CuO + 2HCl→CuCl₂ + H₂O (酸化銅(Ⅱ) + 塩酸→塩化銅(Ⅱ) + 水)
【補足1 塩酸について】
塩酸は塩化水素という物質を水に溶かしたものです。
そのため、「酸化銅(Ⅱ) + 塩酸→~」という書き方は本来は間違いであり
正しくは「酸化銅(Ⅱ) + 塩化水素→~」になります。
【補足2 化学式について】
CuO:酸化銅(Ⅱ), CH₃COOH:酢酸(お酢の主成分), H₂O:水,
(CH₃COO)₂Cu:酢酸銅(Ⅱ), HCl:塩化水素, CuCl₂:塩化銅(Ⅱ)
以上のことから錆が生じて汚くなった十円玉が調味料や洗剤で綺麗になるのは、
単純に表面に生じた錆が溶けて取り除かれているだけです。
つまり、綺麗になるのは還元ではない!ことになります。
一度還元されてから調味料や洗剤に溶けたという考え方について
今回の実験について、「酸化銅(Ⅱ)が調味料や洗剤で一度還元されて
銅になった後に、調味料や洗剤に溶けている。つまり還元は起きている。」
と思う人がいるかもしれません。
しかし、「2-3 トイレ用洗剤(塩酸)に銅は溶けるのか」をしているのであれば
塩酸に銅は溶けないので、その考え方は間違いということになります。
【補足3 塩酸に銅が溶けることもあります】
銅を塩酸に浸した状態で長い間放置したり、空気を吹き込み続けたりすると
空気中の酸素が原因で銅が溶けだします。
調味料や洗剤を入れて茶色い破片があるから還元されているのでは?
実験方法1.⑫で茶色の固体(銅製針金の破片)がうまく取り除けないと
酸化銅(Ⅱ)に銅が混じった状態になってしまいます。
銅が混じった酸化銅(Ⅱ)に調味料やトイレ用洗剤を加えると
酸化銅(Ⅱ)は溶けてしまうので、銅だけが残ってしまいます。
別の方法で酸化銅(Ⅱ)を作れば銅は混入することはありません。
しかし、作る方法があるのですが、安全性やかかる時間、費用などを考えた
結果、今回のやり方を紹介することになりました。
銅が少し混入していても調味料や洗剤を加えることで
大部分が溶けていることから還元では無いと解ると思います。
酸化銅(Ⅱ)や酢酸銅(Ⅱ)などの(Ⅱ)の意味は?
酸化銅(Ⅱ)や酢酸銅(Ⅱ)などは銅のイオンと-の電気を帯びたイオン(陰イオン)
から構成されています。
銅のイオンにはCu⁺(銅(I)イオン)とCu²⁺(銅(Ⅱ)イオン)の二種類があり、
化合物を構成する銅のイオンがどちらなのかを区別するために(I)や(Ⅱ)を
使っています。
今回の記事で紹介した酸化銅(Ⅱ)やオキシ酢酸(Ⅱ)、酢酸銅(Ⅱ)、
塩化銅(Ⅱ)は全てCu²⁺が含まれているので(Ⅱ)が名前についています。