家でできる実験

身近な物を使って家でできる化学実験を紹介したり、化学の話をするブログです。

【番外編】 硫酸ネオジムアンモニウムの合成について

 「身近な物で色が変わる結晶を作る」というタイトルで硫酸ネオジムアンモニウム

合成する方法と一般人向けの解説を紹介しました。

この記事では「身近な物で色が変わる結晶を作る」に関して補足情報や

問題点、著者の考察について書いていきます。

前編と後編は化学をしていない人でも解るように書きましたが、

この記事では高校化学+α(大学化学の初歩レベル)の内容を学んでいる人向けに

書かして頂きます。ただし、著者がポンコツなので知性や学を感じ無い内容に

なっていると思うのでそこはご承知おきください。

 

 

得られた結晶の組成について

 この実験において最も重要な事なのにも関わらず、最終的に得られた結晶の組成は

不明です。しかし、得られた結晶のIRスペクトル測定は行っており、

Na₂SO₄無水物及び(NH₄)₂SO₄のIRスペクトルから考慮して結晶中にはNH₄⁺とSO₄²⁻が

含まれていることを確認しました(Figure 1)。

 

 

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Figure 1. The IR spectrum of sodium sulfate(black) & ammmonium sulfate(red),

neodymium ammonium sulfate n-hydrate(blue). The Ir spectrum were mesured by KBr pellet.

 また、得られた結晶は太陽光でピンク色、(種類にもよるが)室内灯で黄緑色に

変化するためネオジム磁石からNd³⁺を取り出せている事になります。

これらの事を考慮すると得られた結晶はほぼ硫酸ネオジムと硫酸アンモニウム

複塩であるといえます。

 

得られた結晶の組成を知るためにはどうすればよいのか

 硫酸ネオジムアンモニウムの水和物は(組成が単純なこともあり)結晶データベースに登録されている物質です。そのため、シミュレーションパターンや格子定数と得られた結晶のXRD測定結果を比較すればすぐに同定することができます。

その他に元素分析を行う方法もありますがどちらにせよ、外部の研究機関で

分析をして頂く必要があり、測定に料金(特に元素分析の料金は高い)がかかることや

手続きが面倒なこともあって何もできていないのが現状です。

 もしも、個人で組成を特定するなら古典的な重量分析を行う方法が挙げられます。

硫酸ネオジムアンモニウムを構成するイオン及び結晶水は下記の方法で

定量することになります。

Nd³⁺:水酸化物沈殿を経て酸化物の重量から定量orシュウ酸塩にして定量

NH₄⁺:結晶の重量からNd³⁺とSO₄²⁻、結晶水の重量を引く

SO₄²⁻:CaSO₄として回収し、その重量から

結晶水:加熱による重量損失から(温度に注意しないと分解によってNH₃が

生成してその分の重量が減ってしまう)

 ネオジム磁石にはNdと同じくランタノイドであるDyが含まれています。

ランタノイドは基本的に化学的性質が似ているので得られた結晶中にはDy³⁺が

含まれていると考えられます。

けれども、ランタノイドの硫酸塩の溶解度はLaからEuにかけて減少傾向にあるものの、

それ以降は原子番号が増加するにしたがって溶解度が増加する傾向があります。

(この傾向を利用することで複数のランタノイドが混ざった溶液から原子番号

小さいランタノイド(軽希土)と原子番号の大きいランタノイド(重希土)を大まかに

分離することができる)。

つまり、(得られた物はNH₄⁺複塩ではあるものの)硫酸Ndと硫酸Dyの溶解度を

比較すると硫酸ジスプロシウムの方が大きいことになります。

そのため、得られた結晶中にDy³⁺は含まれているものの、重量分析では問題無い

量であると考えられます。

「方法を書くなら実行しろ」という意見が出ると思いますが、純度の良い沈殿材の

準備など問題点があるため残念ながら何も手を付けてはいません。 

 

結晶にヒビが入る現象

 この実験において、得られた結晶にはヒビのようなものが入っています。

溶液から取り出して乾燥させた結晶が風解によってヒビが入ることはあります。

しかし、この実験で析出した結晶は溶液中にある時点でヒビが入っています。

析出したばかりの小さな結晶ではヒビが見られないようですが、

結晶が成長するとヒビが見えてくることから、以下の二つが原因ではないかと

考えています。但し、二つの説は根拠となるようなものは何もないため

あくまでも著者の想像になります。

【①多結晶】

析出した結晶は一つのように見えるが、実は複数の結晶でそれぞれが

成長するためにヒビが入ってしまう。

 

【②多形or擬多形への変化】

析出した結晶は準安定状態であり、徐々により安定な多形や擬多形に

変化するためヒビが入ってしまう。

 

ネオジム磁石には樹脂?の被膜が施されている

 ネオジム磁石は防錆などを兼ねてニッケルの被膜(メッキ)が施されています。

この実験において、溶解スピードの差などからニッケルの被膜は溶け残ります。

溶け残ったニッケルをニッケル塩の原料に使えないかと思い、取って置いた

ニッケルの被膜を塩酸を含むトイレ用洗剤に沈めたところ、短時間で溶解しました。

しかし、その溶液は澄んだなく海苔の味噌汁ような黒いヒラヒラとしたものが

沢山ありました。

 普通なら、ろ過で黒いヒラヒラを取り除けばよいのですが元々の溶液の量が少なく、

損失や後の濃縮をする必要があるため、一般的なろ過を行うことはできませんでした。

こういう場合、(著者なら)遠心分離やシリンジフィルターを行うのですが、

前者は所有して無く、後者は所有しているものの少し高価でケチってしまい

使いませんでした。

 この黒いヒラヒラ何のかは不明ですが恐らく防錆のための樹脂のような

ものではないかと考えられます。

念のため、強力な磁石で吸い寄せられるか試したところ吸い寄せられませんでした。

また、トイレ用洗剤を含んでいる状態ですがジクロロメタンを加えて

軽く振り混ぜたりもしましたが黒いヒラヒラは溶解しませんでした。

 そもそも、Niはメッキとして使われているためNd磁石1個当たりから

得られるNiの量は非常に少なく、利用するメリットは小さい。

 

結晶が茶色い

 紹介した方法で得られた結晶と、回収した結晶を2~3回再結晶して得られた結晶を

比較すると前者の方がごく僅かに黄~茶色がかって見えます。

析出した結晶を回収する際に、結晶表面を濯いで洗浄をしていますが、

それだけでは落としきれなかったり、結晶内部に取り込まれている可能性が

考えられます。

当初、これはDy³⁺を含むためだと考えていました(硫酸Dy8水和物が黄色のため)。

けれども、「得られた結晶の組成を知るためにはどうすればよいのか」で

書いたように結晶中に含まれているDy³⁺は少ないこと、Nd磁石中の

Dyは約5%であることを考慮すると、Dy³⁺が原因である可能性は低いことになります。

 

【番外編】 ライターの石からレアアース硫酸塩を合成する

 「ライターの石からレアアースを分離する」というタイトルで

硫酸ランタンアンモニウムと硫酸セリウム(Ⅲ)アンモニウムを合成する方法と

一般人向けの解説を紹介しました。

この記事では「ライターの石からレアアースを分離する」に関して著者の不明点や

紹介できなかった補足、個人的な考察を書いていきます。

加えて、今まで書いてきたのはなるべく化学をやっていない人でも

解るように書いてきましたが、この記事では大学の化学の初歩的な内容を

学んでいる人向けに書かせてもらいます。

ただ、著者がポンコツなので知性や学を感じ無い内容になるのはご承知おきください。

 

沈殿が溶解して四角い結晶が成長する現象について

 発火石から希土類硫酸塩を作る際、まれに沈殿を静置しておくと

沈殿は溶解して結晶が析出してくることがあります(図1)。

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図1 沈殿から結晶の析出

この現象が起こる条件と原因については現在のところ解明には至ってません。

ただ、下記の条件のヒントとなるような事が解っています。

・冬や初春に行うと稀に確認できるが、それ以外の季節では確認されてない。

   (気温の高い季節に確認されてないだけで、起こる可能性も否定できない)

・上記の条件に加えて発火石を溶かした液をろ過する際に、ろ液を入れる

ビーカーにあらかじめ(NH₄)₂SO₄を入れておくと稀に起こる。

(綺麗な沈殿を作るという点では上記の方法は不適当ではある)

 これらの条件のヒントから、①沈殿の熟成、②多形or擬多形への変化が

原因ではないかと考えています。 以下、それぞれの仮説について書いていきます。

 

【①沈殿の熟成】

 沈殿の熟成において、多数の小さな沈殿粒子(結晶)が溶解すると同時に、

別の沈殿粒子が成長していくという現象は、(NH₄)₂SO₄を加えて生じた沈殿が

母液中で四角い結晶になるという現象と類似しています。

また、多くの塩や水酸化物は温度が上がると溶解度が上がるため沈殿の熟成を

行う際には加熱を行いますが、希土類の硫酸塩は温度が上がると溶解度が

下がるため、温度が低い状態の方が沈殿の熟成は進みやすくなる可能性があります。

加えて、沈殿から四角い結晶ができる現象は液温が低くなる気温が低い

時期にしか確認されていません。

 

【②多形or擬多形への変化】

 そもそも(NH₄)₂SO₄を加えて生じた沈殿とその後に析出した四角い結晶が

同じ結晶なのか、異なる物質なのかですら解ってはいない。

私は、(NH₄)₂SO₄を加えて生じた沈殿とその後に析出した四角い結晶が

多形または擬多形の関係にあるのではないかと考えている。

生じた沈殿の一部と、沈殿の残りから析出した結晶のPXRD測定を行えば

同じ結晶か違う結晶なのか知ることができる。

また、希土類硫酸塩やそのアンモニウム複塩のような単純な化合物であれば

(既に構造解析も行われているはずなので)恐らく結晶データベースに

載っているため、シミュレーションパターンとの比較で物質の同定も行える。

ただし、機器測定は外部の研究機関に測定してもらう必要があり、

その測定も当然有料である。また、測定を行うには手続きが必要であるが、

面倒そうなので中々一歩が踏み出せないのが現状である。

 

得られた固体の組成について

 この実験では最も重要な事である最終的に得られた固体(粉末、結晶)の

組成が何なのかですら解ってはいない。

XRDによって得られた物質を同定を行うことができるが、先ほど書いた理由で

行えたはいない。

ただし、得られた固体はアンモニウム複塩である可能性は非常に高いと考えている。

その理由として私が以前紹介した硫酸ネオジムアンモニウムの合成の実験がある。

この実験では、今回の実験と同様に希土類(Nd³⁺)を沈殿させるために(NH₄)₂SO₄を

用いている。そして最終的に得られた結晶のIRスペクトルの測定を行っており、

N-Hに由来するピークが確認されているためアンモニウム複塩であるということが

解っている。

 信頼性が低くなるが、古典的な重量分析であれば固体の組成を家で決定することが

可能である。ただし、得られた固体にはLa³⁺とCe³⁺が混ざっているためそれぞれを

定量する分、手数が増えてしまう。

また、得られた固体中の希土類はLaとCeが大部分を占めるが、他の軽希土類も

少量含まれているため、その分の重量が測定結果に影響してくる可能性が考えられる。

もし、家で重量分析を行う場合は、下記の方法で各イオンを定量することになる。

水(結晶水):加熱前の固体重量から加熱後の重量の差分から

Ce³⁺:CeO₂として回収し、その重量から(酸化剤を探す必要がある)

La³⁺:固体中の希土類を(水)酸化物として定量後、Ce³⁺との差分から

SO₄²⁻:CaSO₄として回収し、その重量から

NH₄⁺:固体の重量から結晶水、Ce³⁺、La³⁺、SO₄²⁻を引いた差分から

組成を決定するために重量分析を行うとなると、そこそこの量の

試料としての固体と純度が良い沈殿剤が必要となる。

そういったものの準備と測定に費やす時間を考えると労力やコスト、

時間がかかるため結局のところ何も行えてないのが現状である。

 

再結晶によって2種類の結晶が確認される

 実験を最後まで(粉末の再結晶まで)行うとダイヤ型の四角い結晶に混じって

少量の柱状の結晶が確認されることがある。

XRD測定で同定すればすぐに解決する事であるが上記の2種類の結晶の違いは

何なのか解ってない。考えられる可能性として①多形or擬多形、

②金属イオンとNH₄⁺の比が異なる複塩、③硫酸アンモニウムがある。

 

【①多形or擬多形】

溶けている物質は1種類なのにそこから析出する結晶は多形or擬多形の関係にある

2種類の結晶である場合がある(結晶によって機能性の有無がある場合、析出条件は

重要です)。もし、四角い結晶と柱状結晶が多形や擬多形の関係であるのなら

析出量の少ない柱状結晶のみを再結晶して見てどちらの結晶が析出するか

確認する必要がある。

 

【②金属イオンとNH₄⁺の比が異なる複塩】

硫酸セリウムアンモニウムについては不明ではあるが硫酸ランタンアンモニウムにはLa³⁺:NH₄⁺の比が1:1、1:3、1:5、1:6、2:5の複数が知られているため

組成比が異なる複塩が析出した可能性がある。

 

【③硫酸アンモニウム

析出した柱状の結晶は硫酸アンモニウムの結晶と類似している。

そのため、不純物というよりは再結晶時に複塩にならなかった

硫酸アンモニウムが結晶として析出した可能性がある。

これに関してはその結晶のみを回収してから水に溶解後、アンモニア水や

Na₂CO₃水溶液といった塩基の水溶液を加えて水酸化物や塩基性炭酸塩の

沈殿有無を確認すれば希土類の複塩かどうかを判別することができる。

 

ライターの石からレアアースを分離する 後編(Syntheses Lhanthanum & Cerium Ammonium Sulfate at home Part 2 of 2)

 前編ではライターの発火石(火打ち石、フリント)からレアアース

分離する方法を紹介しました。

後編では実験の原理について解説していきます。

前編の冒頭に書きましたが、この実験の基本的なところはネオジム磁石から

硫酸ネオジムアンモニウムを作る実験を参考にしてます。

 

iedejikken.hatenablog.com

 

何故、発火石の表面を削るのか? (操作①)

 発火石は、鉄とレアアースに分類される複数の金属(主にセリウムとランタン)、

マグネシウムからできています。

発火石に使われている金属というのはライターの着火に使われるように、

火花が出やすい=(酸素と)反応しやすい金属が使用されています。

そのため、発火石をそのまま置いておくと、少しずつ錆びてしまうので、

これを防ぐために発火石の表面には塗装がされています。

 発火石の塗装には小さな隙間があるため、塗装を削らなくても

トイレ用洗剤に溶けることができます。

しかし、小さな隙間だけではトイレ用洗剤と触れる面積が小さいため、

溶けるまでにかかる時間が少し長くなってしまいます。

また、反応で生じたガス(水素)が塗装内の空洞に溜まると、

トイレ用洗剤に浮かんでしまい、発火石が溶けたかどうかの判断が

解りずらくなってしまいます。

そのため、発火石の塗装を2か所削るのは、トイレ用洗剤に触れる面積を

増やすのと同時に、生じたガスが溜まって浮くのを防ぐためです。

削る理由が上記の理由になりますが、率直なことを書いてしまうと、

発火石の表面を削らなくても一応、実験はうまくいきます。

 

発火石にトイレ用洗剤を加えると何が起きているのか? (操作④~⑦)

 今回、使用したトイレ用洗剤には塩酸が含まれています。

発火石で使用している金属は反応性が高いため、これらの金属は

塩酸と反応すると水素を発生しながら水溶性の物質(FeCl₂やLaCl₃、CeCl₃、

MgCl₂など)を生じます。

トイレ用洗剤の大部分は水であるため、生じた水溶性の物質は溶けていきます。

同時に、生じる水素は水にほぼ溶けないのでブクブクとトイレ用洗剤から

出て行ってしまいます。

 

【反応式】

Fe + 2HCl→FeCl₂ + H₂ (鉄 + 塩酸→塩化鉄(Ⅱ) + 水素)

2La + 6HCl→2LaCl₃ + 3H₂ (ランタン + 塩酸→塩化ランタン + 水素)

2Ce + 6HCl→2CeCl₃ + 3H₂ (セリウム + 塩酸→塩化セリウム(Ⅲ) + 水素)

Mg + 2HCl→MgCl₂ + H₂ (マグネシウム + 塩酸→塩化マグネシウム + 水素)

【補足1 塩酸について】

塩酸は塩化水素という物質を水に溶かしたものです。

そのため、「金属 + 塩酸→~」という書き方は本来は間違いであり

正しくは「金属 + 塩化水素→~」になります。

 

【補足2 元素記号と化学式について】

Fe:鉄, La:ランタン, Ce:セリウム, Mg:マグネシウム, HCl:塩化水素,

FeCl₂:塩化鉄(Ⅱ), LaCl₃:塩化ランタン, CeCl₃:塩化セリウム(Ⅲ),

MgCl₂:塩化マグネシウム, H₂:水素

 

【補足3 生じている物質について】

発火石中のレアアースは主にランタンとセリウムなのですが、

それ以外にPr(プラセオジム)やNd(ネオジム)といったレアアース

含まれています。

そのため、塩酸との反応でPrCl₃(塩化プラセオジム)やNdCl₃(塩化ネオジム)など

生じていますが、発火石中のレアアースの大部分はランタンとセリウムなので

省略しています。

 

発火石にトイレ用洗剤を加えた後の悪臭は何なのか? (操作④~⑦)

 スチールウールや鉄釘といった鉄製の物を塩酸や硫酸に溶かす際に

悪臭がする原因と同じだと考えられます。

スチールウールや鉄釘に使われている鉄には不純物として炭素やケイ素、

硫黄、リンが鉄と結びついた形で存在しています。

(機能性をあげるために加えられている場合もある)

そこに、塩酸や硫酸を加えると鉄と結びついていた不純物は炭化水素

シラン、硫化水素、ホスフィンといった悪臭のするガスが生じます。

これが、スチールウールや鉄釘などを塩酸や硫酸に溶かす際に

悪臭がする原因です。

 発火石を構成する金属に鉄が使われています。

この鉄に含まれていた不純物がトイレ用洗剤中の塩酸と

反応したことでスチールウールや鉄釘と同じように悪臭がする

ガスが発生したと考えられます。

 

残った黒い粉の正体は何なのか? (操作⑦)

 先に答えを書いてしまうと、黒い粉の正体は鉄です。

発火石を構成している金属はどれも反応しやすい金属です。

その中で、鉄を除いた金属は特に反応しやすい金属であるため、

鉄よりも早くトイレ用洗剤中の塩酸と反応していきます。

その結果、鉄(黒い粉)が溶け残ってしまうことになります。

 

硫酸アンモニウムを加えて生じる固体(沈殿)は何か? (操作⑧~⑩)

 発火石とトイレ用洗剤(塩酸)の反応で生じた水溶性物質は

+の電気を帯びたイオン(陽イオン)と-の電気を帯びたイオン(陰イオン)に

解れた(電離)状態で水に溶けています。

また、加えられた硫酸アンモニウムも水に溶けると電離しています。

 

【電離】

FeCl₂→Fe²⁺ + 2Cl⁻ (塩化鉄(Ⅱ)→鉄(Ⅱ)イオン + 塩化物イオン)

LaCl₃→La³⁺ + 3Cl⁻ (塩化ランタン→ランタンイオン + 塩化物イオン)

CeCl₃→Ce³⁺ + 3Cl⁻ (塩化セリウム(Ⅲ)→セリウム(Ⅲ)イオン + 塩化物イオン)

MgCl₂→Mg²⁺ + 2Cl⁻ (塩化マグネシウムマグネシウムイオン + 塩化物イオン)

(NH₄)₂SO₄→2NH₄⁺ + SO₄²⁻ (硫酸アンモニウムアンモニウムイオン + 硫酸イオン)

 

【補足4 イオン式について】

Fe²⁺:鉄(Ⅱ)イオン, Cl⁻:塩化物イオン, La³⁺:ランタンイオン,

Ce³⁺:セリウム(Ⅲ)イオン, Mg²⁺:マグネシウムイオン,

NH₄⁺:アンモニウムイオン, SO₄²⁻:硫酸イオン

 

 La³⁺やCe³⁺を含む水に電離するとSO₄²⁻を生じる物質を沢山加えると

La³⁺やCe³⁺とSO₄²⁻が結びついて硫酸ランタンと硫酸セリウム(Ⅲ)という

水に少し~やや溶けにくい物質が生じるため沈殿します。

厳密には元々SO₄²⁻と結びついていた陽イオンが取り込まれて沈殿します。

今回の実験でSO₄²⁻に元々ついていた陽イオンアンモニウムイオンであるため

生じた物質は硫酸ランタンアンモニウムと硫酸セリウム(Ⅲ)アンモニウムになります。

硫酸ランタンアンモニウムはランタン、硫酸セリウム(Ⅲ)アンモニウムには

セリウムが含まれており、ランタンとセリウムはともにランタノイドです。

そのため、今回の実験によってライターの石である発火石から

ランタノイド(ランタンとセリウム)を分離することができたことになります。

 

粉状沈殿が無くなって粒状結晶ができるのは何故か? (操作⑩~⑪)

 必ず起こるとは限りませんが、生じた粉状沈殿を置いておくと、

粉状の沈殿は消えて行って粒状結晶が生じることがあります(図1)。

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図1 粉状沈殿から粒状結晶への変化

この現象が起こる条件と何が起こっているのかについては

現在まで特定には至ってはいません。

この現象については①沈殿の熟成、②安定な結晶への変化の

二つのどちらかが原因ではないかと考えています。

詳細はやや難しい内容のため、番外編に書いておきます。

この記事ではざっくりとした解説を書くと

【①沈殿の熟成】

沢山の小さい結晶を含む液体(今回だと水)を置いておくと

粉状沈殿は溶けていき、数の少ない大きい結晶がさらに大きくなる

という現象があります(目視でわかる程大きくなるとは限らない)。

もの凄く大雑把ですが上記の減少を沈殿の熟成(オストワルト熟成)と

呼びます。

今回、粉状沈殿が小さい結晶であったため、この現象が起きたと

考えています。

 

【②の安定な結晶への変化】

結晶というのは原子や、分子、イオンがある規則に従って周期的に

並んでいる固体のことです。

同じ物質でも周期的に並ぶ規則が異なることがあります。

その場合、同じ物質でも異なる結晶が生じることになります。

同じ物質でも結晶が異なるとエネルギー的に安定な結晶とやや不安定な結晶が

存在することになります。

そして、エネルギー的にやや不安定な結晶を置いておくと、

エネルギー的に安定な結晶に変化する事があります。

今回、粉状沈殿はエネルギー的にやや不安定な結晶で粒状結晶が

安定な結晶であったと考えています。

 

沈殿または結晶に水とトイレ用洗剤を混ぜたものをかけるのは何故か? (操作⑫)

 必要なのは硫酸ランタンアンモニウムと硫酸セリウム(Ⅲ)アンモニウムである

粉状沈殿または粒状結晶です。 

粉状沈殿と粒状結晶は固体であるためろ過をすることで、必要でない物質(不純物)を

含んでいる水と分離することができます。

けれども、粉状沈殿と粒状結晶の表面には不純物を含む水が

付いたままになっています。

そのため、不純物を含む水を取り除くために水とトイレ用洗剤を混ぜたものを

かけます。

この時、普通の水で洗浄すると粉状沈殿と粒状結晶が溶けて量が減るなど

別の問題が起こるのでトイレ用洗剤を加えています。

 

ライターの石からレアアースを分離する 前編(Syntheses Lhanthanum & Cerium Ammonium Sulfate at home Part 1 of 2)

イントロ 

 オイルライターの発火石(火打石、フリント)にはレアアースが使われています。

このレアアースを身の回りにあるものを使って結晶・粉末という形で

分離する(レアアースを含む結晶・粉末を作る)方法を紹介します。

前編では実験のやり方を紹介し、後編ではその方法について解説します。

この実験の基本的な原理はネオジム磁石から硫酸ネオジムアンモニウム

作る実験を参考にしています。

 

 

 

必要な物

・オイルライター用発火石 6個…100円ショップ、コンビニなどで購入できます。

・トイレ用洗剤…成分に塩酸とあるもの。色が付いていないタイプを推奨。

・精製した硫酸アンモニウム…ホームセンターや通販で購入した硫酸アンモニウム

                  事前にこの記事のやり方で不純物を取り除いたもの!

・カッターまたはハサミ

・ガラス製の容器 3個…最低100mlの水が入る綺麗に洗ったジャムの空き瓶など

・液体の体積が測れる道具…メスシリンダーなど。金属製の物は使用厳禁!

・ろう斗(ロート、じょうご)…100円ショップ等で購入できる。

              できれば小さいサイズを推奨

・コーヒーフィルター…100円ショップで購入できます。

・プラスチック製のマドラーやスプーン…100円ショップなどで購入できます。

                   金属製の物は使用厳禁!

・天秤(0.1gまで測れるタイプ)…キッチングッズを販売している店で購入できます。

・ラップ

ティッシュ

・スポイト

 

実験方法・やり方

※腐食性の液体を使うので金属製の物(装飾品など)に

 触れないように作業してください!

レアアースを含む粉末・粒状結晶を作る

① 発火石6個の塗装の2か所をカッターやハサミで削る(図1参照)。

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図1 塗装の一部を削った発火石

② 削った発火石6個をガラスをガラス製の容器に入れる。

③ 悪臭がしても問題ない場所に移す。

④ 発火石が入っているガラス容器にトイレ用洗剤12mlを静かに注ぐ。

⑤ ラップを密閉状態にならないようにやさしく被せて90分間置いておく。

⑥ 90分間待っている間に、時々揺らしておく

⑦ 90分間経ったら、ろう斗とコーヒーフィルターの組み合わせで⑤の液をろ過する。

⑧ ろ過した液に、精製した硫酸アンモニウム2.6gを一度に加える。

⑨ 硫酸アンモニウムの大きな塊が溶けて無くなるまでかき混ぜ続ける。

⑩ 粉状の沈殿が生じているのを確認したら、ラップをきっちりかけて1晩置いておく

⑪ ろう斗とコーヒーフィルターの組み合わせでろ過をする。

注意:稀に粉状の沈殿を置いておくと粒状の結晶(図2左参照)ができることがあります。

        もしも、粉状の沈殿と粒状の結晶が混ざった状態の場合(図2右参照)、粉状の沈殿

           が無くなるまで待ってからろ過を行った方が純度の良いものが得られます。

 

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図2 左:粒状の結晶、右:粉状の沈殿と粒状の結晶が混ざった状態

 

⑫ ろ過が終わったらコーヒーフィルター上の粉状沈殿または粒上の結晶に水1mlと

  トイレ用洗剤1mlを混ぜた液をスポイトを使って全体に少しずつかける。

⑬ 室温で、粉状沈殿または粒状結晶を乾燥させる。

  もしも、粉状沈殿を結晶にしたいのであれば⑭~⑱を行う。

 

レアアースを含む粉末を大きい結晶にする

⑭ 乾燥した粉状沈殿をガラス製容器に入れる。

⑮ ⑭に水32mlを静かに混ぜながら加える。

⑯ 粉が全て溶けたことを確認したらティッシュを被せて、置いておく

  粉が溶けた後の水が薄い紫色の場合、トイレ用洗剤を5滴程加える。

⑰ 生じた結晶が水面から出る少し前まで水が減ったら結晶を取り出す。

⑱ 室温で結晶を乾燥させる。

 

後編に続く

iedejikken.hatenablog.com

自由研究やインテリアに使う人向け 実験器具の購入方法

 自由研究で実験器具を使いたい人、インテリア用で実験器具が欲しい人向けに

実験器具がどこで購入できるのか紹介していきたいと思います。

 

 

実験器具を購入できる場所

 実験器具は私たちが普段、買い物をする時と同じように店頭と通販で

購入することができます。

 

専門店

メリット:実物を見ることができる

デメリット:住んでいる街にあるとは限らない

 

 実験器具を販売している問屋さんや教材を販売している業者の中には

実店舗で販売しているところがあります。

専門店なので様々な種類やサイズの器具が置いてあり、スーパーマーケットで

買い物する際と同じように自分の目で見て選ぶことができます。

加えて、下記で紹介する実店舗販売に比べると値段が少し安い場合があります。

しかし、専門店は住んでいる街に必ずあるとは限りません。

 

東急ハンズ

 メリット:実験キットや実験の材料も販売している

 デメリット:店舗が無い県がある。一部の器具が無い

 

 東急ハンズでは実験器具だけでなく実験キットも販売されており、

実際に自分の目で見て選ぶことができます。

また、工作で使う工具や材料など実験に使うことができる物も購入できます。

ただし、東急ハンズは店舗の無い県が存在しています。

また、高校化学以上で扱う器具は販売されてないです。

 

ホームセンター

 メリット:実験の材料が販売されている

 デメリット:実験器具を取り扱っているとは限らない。

 

 ごく一部のホームセンターでは実験器具を販売している店舗があります。

しかし、実験器具を扱っていたとしても欲しいサイズや規格の器具が

販売されていない場合があります。

実験器具が販売されていなくてもホームセンターは様々な工具や材料を

購入することができます。

 

科学に関する博物館のお土産コーナー

 メリット:(見学のついでに買える)

 デメリット:扱っている器具が少ない

 

 国立科学博物館など大きくて科学に関する博物館の土産コーナーでは

実験器具を扱っています(100%扱っているとは限らない)。

恐らく、この記事の中で一番扱っている器具の種類は少ないです。

実験キットが販売されていることもありますが、あくまでも博物館に

来たついでぐらいに考えるとよいと思います。

通販サイト

 メリット:どこでも、誰でも購入できる

 デメリット:実物を確認できない。送料がかかる場合がある

 

 教材を販売しているサイトから大手通販サイトまで様々な通販サイトで

実験器具を購入することができます。

通販サイトはネットがつながれば、誰でも購入することができます。

ただし、サイトによっては欲しいサイズや規格の器具が販売されていない

場合があります。加えて送料がかかる場合もあります。

 

 【補足 中古の器具はどうなのか?】

 フリーマーケット(フリマ)サイトやオークションサイトで実験器具が

販売されていることがあります。

新品の器具や簡単な機械(装置)であれば基本的に気にする必要な無いです。

しかし、中古の実験器具の場合、今までにどんな薬品を使い、

どんな使われ方をしたのかが不明です。

そのため、中古の実験器具を使って実験すると実験の失敗や

場合によっては器具の破損によるケガが起こる可能性があります。

上記の事から個人的に中古の実験器具を購入して実験に使用することは

あまり推奨はしません。

 

そもそも、研究現場で使われる器具はどこから購入しているのか?

 研究室や実験の授業で使われている実験器具は基本的に理化学機器や

試薬(薬品)を扱う業者から購入しています。

ただし、一部の追加工のあるオーダーメイド製の器具に関しては

実験用の器具を作ってもらう業者の方にお願いすることもあります。

また、ごくまれにちょっとした消耗品をモノタロウなどの通販で

購入することもあります。

 

器具の洗浄について(自由研究から実験室レベルまで)

 この記事では自由研究レベルから研究室レベル?までの一般的な

器具の洗い方を紹介していきます。

 

綺麗な器具を洗う重要性 

 実験で使う器具が汚れていると、実験の失敗や酷い場合はケガのもとになります。

特に、市販されていない物質を使う場合は、その物質を作るのに高い薬品を

使って何日間もかかっていることもあるので、実験器具が汚れていただけで

苦労した時間もお金も無駄になってしまいます。

自由研究でも時間が無い中、実験をゼロからやり直したり、

期待通りの結果が得られなかったりすることにつながります。

 

器具を洗う手順

 一般的な器具を洗う際には下記のステップで行います。

1. 廃液の除去

2. 固体の除去

3. ブラシ、スポンジによる洗浄

4. 純水(蒸留水)による置換

 

1. 廃液の除去

 実験器具は最終的に流し場で洗浄します。実験で使用して不要となった液体(廃液)が

実験器具に付着していると流し場から下水へ流れてしまいます。

また、次のステップで行う固体の除去を行う際に、手間がかかってしまったり、

廃液の量が増えてしまうことに繋がります。

 廃液の除去方法は、最初に器具内にある廃液を廃液用の容器(タンク)に

移し入れます。状況によっては器具内の固体が廃液用の容器に入れないよう

注意して廃液を映し入れる必要があります。

 廃液を移し入れても器具は廃液で濡れているため、器具に残っている

廃液を除去する作業が必要です。

残った廃液の除去は実験で使用した溶媒(液体)で中を軽く濯ぎます。

勿論、濯ぎに使って廃液が混じった溶媒は廃液用の容器に捨てます。

 

2. 固体の除去

 実験によっては器具内に固体が付着している場合があります。

廃液用の器具にろう斗とろ紙をセットしておけば廃液を捨てる際に

固体の除去も同時にすることができます。

場合によっては器具に固体がくっついて残ってしまう場合もあります。

器具に残った固体はキムワイプ等(紙製の雑巾のようなもの)でふき取れば

除去できます(自由研究の場合はティシュでふき取りましょう)。

しかし、場合によっては固体を溶かして除去する必要があります。

溶かして固体を除去する場合には二つの方法があります。

一つ目の方法は単純に固体を溶解できる溶媒を加える方法です。

この方法で、水を使うのであればお湯にして溶解度と溶解スピードを

上げることができます。

二つ目の方法は固体と反応して溶かす物質を使う方法です。

酸や塩基、酸化剤、還元剤の水溶液を使って固体を溶かし、除去します。

扱う物質によってはバケツに上記の水溶液を入れておいて、付け置きする

必要があります。

 固体を溶かして除去した場合、器具は廃液で濡れているので

水や揮発性の高い有機溶媒で濯ぐ必要があります。

特に付け置きした場合は、器具の内側だけでなく外側も水で濯ぐ必要があります。

 

3. ブラシ、スポンジによる洗浄

 固体と廃液を除去した器具を流しでスポンジやブラシを使って洗います。

基本的には食器を洗うのと同じ要領です。

器具専用の洗剤をつけたスポンジやブラシを使って器具を擦っていきます。

樹脂製の器具は強くこすると傷がついてしまうので優しくこする必要があります。

スポンジやブラシで器具を擦り終わったら、水道水で洗剤を洗い流します。

器具に洗剤が残ってしまうと困るので食器よりも少し長く水道水で

洗い流すぐらいが良いと思います。

 自由研究であるなら安い中性洗剤をつけたスポンジで上記と同じように

洗えば問題ありません。

当たり前ですが、食器を洗うスポンジと器具を洗うスポンジは分けておきましょう。

 

4. 純水(蒸留水)による置換

 水道水にはカルキ(塩素とも呼ばれます)という消毒のために使われた

物質やミネラル分が含まれています。

そのため、水道水で洗った後の器具をそのまま乾燥させると、水垢の

ようなものが残ってしまいます。

また、実験によってはカルキやミネラルが邪魔をする場合もあります。

そのため、水道水で洗った後の器具は純水(蒸留水)で濯ぐ必要があります。

純水(蒸留水)で器具を濯ぐ際には器具内は最低3回、器具の外側は最低1回

濯いでおきましょう。

自由研究の場合、基本的に純水(蒸留水)で濯ぐ必要はありません。

どうしても純水(蒸留水)で濯ぎたいのであれば100円ショップで販売されている

洗浄瓶(くの字のノズルが付いている)にドラッグストアで販売されている

精製水を使って濯ぎましょう。

 

調味料や洗剤で汚い十円玉は還元できない? 後編

 前編では十円玉の錆の主成分である酸化銅(Ⅱ)を作りました。

後編では、酸化銅(Ⅱ)に調味料(お酢)やトイレ用洗剤を加えてみて

その様子がどうなるかを確認を行います。

そして、最後にこの実験と汚い十円玉が綺麗になるメカニズムについて解説します。

 

iedejikken.hatenablog.com

実験方法・やり方

2. 酸化銅が還元されるのか確認する

2-1 調味料(お酢)を使った場合

① プラスチック製のスプーンを使って一つまみ分の酸化銅(Ⅱ)を

  プラスチック製カップに入れる

② ①のプラスチック製のカップお酢をスポイトやスプーンを

     使って少しずつ加える。

③ 小さな円を描くようにカップを回す。

④ 変化を確認する。

⑤ 黒色の酸化銅(Ⅱ)が無くなるまで②~④を繰り返す。

 

2-2 トイレ用洗剤を使った場合

① プラスチック製のスプーンを使って一つまみ分の酸化銅(Ⅱ)を

  プラスチック製カップに入れる

② ①のプラスチック製のカップにトイレ用洗剤をスポイトやスプーンを

  使って少しずつ加える。

③ 小さな円を描くようにカップを回す。

④ 変化を確認する。

⑤ 黒色の酸化銅(Ⅱ)が無くなるまで②~④を繰り返す。

 

2-3 トイレ用洗剤(塩酸)に銅は溶けるのか確認

① プラスチック製のカップに約1cmの長さの銅製針金を入れる。

② ①のプラスチック製のカップにトイレ用洗剤を加える

③ 小さな円を描くようにカップを回す。

 

解説

十円玉の錆は何か? そもそも汚くなった十円玉はどうなっているのか?

 十円玉は銅という茶色い金属と少量の亜鉛とスズという金属で作られています。

銅は湿った空気中に長い間放置されると、その表面に錆が生じるため、

黒や緑色になったりします。十円玉は人が使っていくうちに、その表面の錆が

生じてしまったり、汚れが付いていくことで汚くなっていきます。

 

そもそも、還元とは何か? 汚い十円玉が還元されるとどうなるか?

 還元とその対義語の酸化とは何なのかざっくりまとめると表1のようになります。

 

               表1 酸化と還元について

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 酸化と還元は酸素原子の授受についてが一般的に知られていますが、

状況や見方によっては水素原子や電子に関するものもあります。

詳細については、時間があるときに記事にしたいと思います。

さて、銅が錆びて酸化銅(Ⅱ)になるということは酸素原子を受け取ることになるので

酸化になります。そのため、酸化銅(Ⅱ)が還元されるということは酸素原子を

失って金属の銅に戻ることになります。

 

何故、調味料やトイレ用洗剤で十円玉が綺麗になるのか? 

 十円玉は銅でできているため、酸化銅(Ⅱ)という錆が生じます。

調味料や洗剤で銅の錆である酸化銅(Ⅱ)が還元されるのであれば

金属の銅が生じるはずです。

しかし、酸化銅(Ⅱ)に調味料(お酢)やトイレ用洗剤を加えて混ぜてみると

酸化銅(Ⅱ)は溶けて無くなってしまいます。

(※茶色いかけらは銅製針金から剥がれ落ちた破片です)

これは、酸化銅(Ⅱ)とお酢中の酢酸、酸化銅(Ⅱ)とトイレ用洗剤中の塩酸が

反応して水溶性の物質が生じたからです。

書くまでもないですが、お酢やトイレ用洗剤には様々な成分が含まれていますが

その大部分は水であるため、反応で生じた水溶性物質はどんどん溶けていきます。

お酢の場合の反応式】

CuO + 2CH₃COOH→(CH₃COO)₂Cu + H₂O (酸化銅(Ⅱ) + 酢酸→酢酸銅(Ⅱ) + 水)

 

【トイレ用洗剤の場合の反応式】

CuO + 2HCl→CuCl₂ + H₂O (酸化銅(Ⅱ) + 塩酸→塩化銅(Ⅱ) + 水)

 

【補足1 塩酸について】

 塩酸は塩化水素という物質を水に溶かしたものです。

そのため、「酸化銅(Ⅱ) + 塩酸→~」という書き方は本来は間違いであり

正しくは「酸化銅(Ⅱ) + 塩化水素→~」になります。

 

【補足2 化学式について】

CuO:酸化銅(Ⅱ), CH₃COOH:酢酸(お酢の主成分), H₂O:水, 

(CH₃COO)₂Cu:酢酸銅(Ⅱ), HCl:塩化水素, CuCl₂:塩化銅(Ⅱ)

 

 以上のことから錆が生じて汚くなった十円玉が調味料や洗剤で綺麗になるのは、

単純に表面に生じた錆が溶けて取り除かれているだけです。

つまり、綺麗になるのは還元ではない!ことになります。

 

一度還元されてから調味料や洗剤に溶けたという考え方について

 今回の実験について、「酸化銅(Ⅱ)が調味料や洗剤で一度還元されて

銅になった後に、調味料や洗剤に溶けている。つまり還元は起きている。」

と思う人がいるかもしれません。

しかし、「2-3 トイレ用洗剤(塩酸)に銅は溶けるのか」をしているのであれば

塩酸に銅は溶けないので、その考え方は間違いということになります。

 

【補足3 塩酸に銅が溶けることもあります】

 銅を塩酸に浸した状態で長い間放置したり、空気を吹き込み続けたりすると

空気中の酸素が原因で銅が溶けだします。

 

調味料や洗剤を入れて茶色い破片があるから還元されているのでは?

実験方法1.⑫で茶色の固体(銅製針金の破片)がうまく取り除けないと

酸化銅(Ⅱ)に銅が混じった状態になってしまいます。

銅が混じった酸化銅(Ⅱ)に調味料やトイレ用洗剤を加えると

酸化銅(Ⅱ)は溶けてしまうので、銅だけが残ってしまいます。

 

別の方法で酸化銅(Ⅱ)を作れば銅は混入することはありません。

しかし、作る方法があるのですが、安全性やかかる時間、費用などを考えた

結果、今回のやり方を紹介することになりました。

 銅が少し混入していても調味料や洗剤を加えることで

大部分が溶けていることから還元では無いと解ると思います。

 

酸化銅(Ⅱ)や酢酸銅(Ⅱ)などの(Ⅱ)の意味は?

 酸化銅(Ⅱ)や酢酸銅(Ⅱ)などは銅のイオンと-の電気を帯びたイオン(陰イオン)

から構成されています。

銅のイオンにはCu⁺(銅(I)イオン)とCu²⁺(銅(Ⅱ)イオン)の二種類があり、

化合物を構成する銅のイオンがどちらなのかを区別するために(I)や(Ⅱ)を

使っています。

今回の記事で紹介した酸化銅(Ⅱ)やオキシ酢酸(Ⅱ)、酢酸銅(Ⅱ)、

塩化銅(Ⅱ)は全てCu²⁺が含まれているので(Ⅱ)が名前についています。